10話

「久しぶりに長距離歩いたな」

「そうね、ちょっと動きたくないわ」

「なら帰りは背負ってやるよ、紗良は軽いから余裕だ」


 いちいち言い訳をするようであれだが今回のこれも紗良が言い出したことだった、だから無理やり連れだしたなんてことはないから勘違いをしないでほしい。

 ただ、なにも言ってこないし、俺的には楽しくお喋りをしながら歩けたものだからかなり遠くまで来てしまった点は反省しなければならないことだった。


「ご飯でも食べるか、俺はこれだっ」

「ふふ、可愛いお弁当箱ね」

「なんか間違って父さんのやつに使ってしまったみたいだから母さんのやつを借りてきたんだ、紗良は?」

「私も同じようなものよ」

「ちょっと交換しようぜ、今日の卵焼きには自信を持っているんだ」


 実は卵焼き以外のおかずはない、などとわざわざ言う必要もないだろう。

 箸が汚れてしまう前に彼女の弁当箱の蓋に置いて対価を求めた、が、彼女は目を閉じて黙ったままだ。


「紗良?」

「あーんは?」

「え、いや、そんなことをしても所詮は俺レベルだから意味がな――はい、どうぞ」

「あむ――うぇっ、こ、これは……」

「え、そんなことはないだろ?」


 交換してもらうつもりで出てきたからちゃんと味見をした、塩と砂糖を間違えるなんてベタなことにもならなかったし、仮に砂糖でも卵焼きなら問題にならない――というのにこの反応はレベルが足りなかったということなのだろうか? それなら今度は同じような反応にさせないために頑張る必要がある。

 そう、なにも恋に関することだけ頑張ろうとしているわけではないのだ、いつでもできるように常日頃から考えて行動をしておく必要があるのだ。


「普通に美味しいわ、ありがとう」

「なんだよそれ――……あ、危ない危ない……」

「どう?」

「――うん、普通に美味しいな」

「ふふ、ならよかった」


 平和だ、場所も相まって尚更そう感じる。

 でも、こちらの趣味に付き合ってもらっているのに彼女の趣味に付き合ったことがないのが気になるところではあった。


「なあ紗良、なんか俺で言うと歩くみたいな趣味はないのか?」

「読書ぐらいかしら」

「なら今度それに付き合うよ、このまま不公平だからな」


 本か、中学のときにあった読書の時間に読んでいた程度でしかないなぁ。

 だが、黙って本に意識を向けていれば満足してくれるはずだ、感想を求められたら詰みだが。


「そんなことはないわよ、これだって私から言い出したことなんだから」

「紗良は俺に甘い、少しは由良みたいにやらないとな」

「峰、気にするなよ」

「い、いや、そういうことじゃなくてさ……」

「いいの、いまのままで十分だわ」


 じっと見ていても意見を変えてくれることはなかった。

 少しだけ残念な気持ちになりながらも白米を食べたり卵焼きを食べることに集中したのだった。

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