149作品目

09話

「渡邊先輩っ、これを受け取ってくださいっ」

「待った、なにか食べたい物を言ってくれ、まだあのときの礼ができていない」

「ならこれを受け取ってくれればいいです」

「それとこれとは別だ、姉妹ももう来るから逃げるなよ」

　掴んでいる間に「よう」と姉の方が来てくれたから任せておく、紗良は……いないみたいだが。

　するとやたらと作った声で「由良先輩助けてくださいっ」と抱きついた、由良はそんな白木を受け止めつつこちらを睨んできた……って、なんでだよ。

「まさか浮気をするとはな、ふらふらしていてもそれだけはしないと思っていたのに驚いたぞ」

「お、おいおい」

「なあ紗良、紗良もそう思うだろ？」

「紗良？　ああ、そこにいたのか……って、なんでいまから行こうとしている店から出てくるんだよ」

　というか、それなりに距離があったのに怒ったような顔に見えるのは何故だ。

　俺は断じて変なことはしていないぞ、だから堂々としておくことができる。

「ごめんなさい、寒かったから中にいたの」

「由良と別行動をした理由は？」

「お姉ちゃんが外にいたがったからよ」

「じゃあ先に着いていたんだな、それは悪かった」

　なるべく余裕があるように出てきたのだがそれでもまだ遅かったようだ。

　誘われて受け入れた形になるものの、受け入れたからには待たせるなんてありえないからこれは申し訳ない。

「勝手に早く来た私達が悪いだけよ、さ、行きましょうか」

「おお、積極的だな」

　手が温かくて落ち着く、ではなく、こうして手を握って歩くことを滅多にしないから新鮮だった。

「あなたのところにあの子が吸い寄せられるように近づくから壁になろうと思ってね」

「いやまあ、白木もメンバーだからな」

「それでもよ」

　と、紗良がやる気満々なのはいいが後ろから攻撃をされているこちらとしては微妙だ。

　由良だけではなく白木もやってくるから困る、いちゃいちゃしてんじゃねえと行動で言ってきているのだろうか。

「そういうのは二人きりのときにやってほしいですけどねぇ」

「峰にとっては初恋みたいなものだ、我慢をしきれないんだろ」

「はぁ、渡邊先輩は子どもです」

「だな、あれだってきっとドキドキしているに違いない」

　由良はどういう目線からの発言なのか、白木の方のそれは違うとも言いづらいことだが。

　隣を見てみると「気にしなくていいわ」とやはり怖い顔の彼女、別に強く握ってきたりはしていないから味方なのだとしてももうちょっと柔らかくしてもらいたかった。

　子どもだから気にしてしまうのだ。