七の数字は、好きじゃない

うた

第1話 七の数字は、好きじゃない

 “七”という数字は、幸運の数字らしい。



 私は、この数字が嫌いだ。


「何で嫌いなんだよ?」

 クラスメイトの有坂伊智ありさかいちが聞いた。ここは高校の教室。放課後で、今、向かい合って日直の日誌を二人で書いている所だ。面倒くさい。世間話をしていたら、何となく数字の話になり、「私は七が嫌い」と言ったのが始まりだった。

「七なんて、中途半端じゃない。五でもないし、十でもない。キリが良くない」

那奈ななって名前なのにな」

 ひひっ、と有坂がからかうように笑った。それをじとりと睨む。

「それよ。数字の七じゃないのに、名前のせいで、やたらラッキーセブンと結びつけようとする奴ばっかり。嫌になるわ」

「あ~、それ、分かる気がする」

「有坂くんも、名前で苦労してたの? 伊智いちだから」

 腕を組んで、うんうんと頷く有坂。

「テストとか、勝負事で一番じゃなかったら、言われるんだよなぁ。お前、伊智のくせに一番じゃないのかよって。うるせぇって思う」

「うわぁ。分かる、分かる。別に良い事なんて一つもないのにね。私なんて、くじ運悪くて、委員会のくじ引き、必ずと言っていいほど当たっちゃって」

「そういや、選挙委員だっけ。あれもくじだったな。いるよなぁ。嫌な役によく当たる人」

「それが私です」

「ははっ」

 有坂が楽しそうに笑っている。私は楽しくない。委員会とかやりたくなかったのに。

「全然ラッキーセブンにあやかれてない。響きが同じだけで、数字の七は入ってないから。アンラッキーばっかりだよ」

「まぁまぁ、ふくれてたら、可愛い顔が台無しだって」

「……へ? え!?」

 言われたセリフに戸惑う私をよそに、有坂はポケットをごそごそして、何かを取り出した。私の前にコロンと転がす。

「アメちゃん。やるよ。ラッキーになったか?」

「ちょみっと。ありがと」

 アメを手に取った。好きないちご味だ。有坂は日誌を引き寄せ、残りを書き終えた。

「終わり。一緒に出る?」

「あ、うん」

 廊下に出ると、誰もいない。二人の足音だけが廊下に響く中、有坂がぽつりと言った。



「あのー、交際を前提に、友達から始めるってどう?」



「え……え!?」

 思いもしなかった告白に、顔が真っ赤になる。有坂も、日誌を内輪のように扇ぎながら、赤い顔を冷ましていた。

 ずっと持っていたアメを見る。顔だけじゃなくて、心まであったかくなってきた。

「よろしく、お願いします」

「やったね。一番になれるように頑張るよ」

「ははっ、伊智だけに。私は、有坂くんの七番目?」

「んなわけないでしょ。一番ですよ」

「良かった」


 少しずつ、距離が近付く。


 君が私の名前を呼んでくれれば、嫌いだった“七”が、好きになれるかも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

七の数字は、好きじゃない うた @aozora-sakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ