パパがしにますように

kou

パパがしにますように

 保育園で保育士をしている万希は、今日は子共達に七夕の短冊を書いてもらった。

 笹に短冊を飾る。

 願い事の内容はさまざまだが、中には突拍子もない内容もある。


 パパがしにますように


 万希は驚く。

 他の園児への影響を考え、その短冊を自分のエプロンのポケットに入れた。

 保育室から廊下に出て歩いたところで声があった。

「先生返して」

 振り向くと、そこには女の子がいた。

 名前は笹原美香という。

「美香ちゃん。どうして、こんなことを書いたの?」

 すると、美香はうつむき加減になりながら答えた。

「だって。ママのことをイジメるんだもん。ママいつも叫んでるの。死ぬ。いや。やめて。助けて。ってだから……」

 そこまで聞いて、万希は自分の考えが正しいことを知った。

 これはDVだ。

 警察相談専用電話に連絡すると、友人が居ることもあり、その日の夕方には職員と婦警が保育園に訪れる。

 夕方になると、笹原祥子が娘を迎えに来た。

 祥子を迎え入れる。

 応接室には職員と婦警がおり、祥子に挨拶をしDV対応について説明をする。

 その間、祥子は一言も発しなかった。

 婦警が言う。

「安心して下さい。私達が、全力で笹原さんと娘さんを護りますから」

 だが、祥子はまだうろたえていた。

 万希が言う。

「聞きました。夜になったらパパがママのことをイジメているって。死ぬ。助けてって、祥子さんが言っているのを、美香ちゃんが聞いているんです。怖がらないで正直に言って下さい」

 すると祥子は、うつむき加減になる。

 祥子は、ぼそっと零す。

「営みです。夫婦の……」

 これには万希たちも絶句した。

 静寂で園内で遊ぶ、子供の声が遠くに聴こえる。

「それは。つまり……」

 万希は訊く。

「あの時の、声です……。主人が激しくて」

 祥子は、赤面しながら小声で答える。

 職員も婦警も赤面し、万希の方を見ていた。

 万希は思った。

 全員にとって、こんなにも不運な七夕がかつてあっただろうか?

 と。

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