アンラッキー7

井上 幸

アンラッキー7

 何だか最近ツイてない。きっかけは多分、あの日。清掃活動のボランティアで海岸のごみ拾いをしていた。肌を刺すような冷たい風に身を縮こませながら、点在するごみを探して袋に集めていく。ふと、光が反射しているのが見えた。気になって近づくと、封のされた小さな瓶だった。濃い緑色のガラス瓶には棒状に丸められた紙が入っている。

 海岸に流れ着いた瓶というと、ついコルク栓の瓶を思い浮かべてしまうけれど、これは普通にアルミの蓋だ。

 瓶を観察していると、散らばっていた仲間たちが集まってきた。その内、開けてみようという話になる。そうして瓶を開けて紙を取り出してみたのだが、そこに書かれていたのはたった三文字。


―— 777


 それ以外には何一つ書かれておらず、微妙な空気でその場はお開きとなった。


 それから何だかツイてない。次の日は、赤信号に当たる回数が多いな、とか。自販機で目当てのジュースが売り切れだった、とか。ほんの些細な違和感で、気のせいだと思っていた。

 けれどそれは日に日に悪化して、どうにも勘違いとか気のせいではすまなくなっていく。

 三日目には、やたらと虫の死骸が目についた。虚ろな瞳がこちらを見ているようで気持ちが悪い。

 五日目には、ばさりと音がして振り向くと、カラスが野犬に襲われていた。断末魔の叫びが耳に残った。

 階段を降りていると突然下へと引っ張られる感覚があった。そのまま落ちたらしく、目覚めた今日が七日目。身体のあちこちが痛む。もし今日一日を無事に過ごせたら、きっとこの一週間のことも偶然だったと思えるだろう。身を起こし、ふらつきながらもなんとか歩く。

 が、身体は正直に限界を訴え始めた。危険や違和感を探りながらようやく洗面台までたどり着く。ほっとして縁に手を掛け、蛇口に手を伸ばした、その時。


『あと、二回』


 喉の奥から絞り出したように嗄れた、でも嫌な感じの笑いを含んだ声が、ねっとりと僕の耳に入り込んだ。

 鏡に映った自分の顔に、知らない誰かがダブって見える。

 そして唐突に理解した。あと二週、続いていくのだろう。この不幸で不吉な7の日が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アンラッキー7 井上 幸 @m-inoue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ