アンラッキー7

一河 吉人

第1話 アンラッキー7

 ラッキー7の由来は諸説あるが、一説にはとある野球の試合で7回の攻撃時、フラフラと上がった打球が風に流されスタンドイン、それが決め手となり優勝を勝ち取った故事に由来するという。


 確かに幸運なんだろうが、野球は対戦型のスポーツ。攻撃側がツイているなら守備側にとっては不幸な事故、アンラッキー7だ。


 そして、俺は守備側の人間だった。


 何も知らない子供の頃は、俺も無邪気に7の数字を喜んでいたものだ。忘れもしない小学1年の七夕、7歳の7月7日。スリーセブンだ! と喜び跳ね回っていたらテーブルの角に膝小僧をしたたかにぶつけ、7針縫う羽目になった。


 翌年の7月7日には水疱瘡みずぼうそうを発症して7日休み、その次の年にはおたふく風邪にかかって寝込んだ。


 俺は恐怖した。7は悪魔の数字だ。最初は笑っていた両親も、7が付く日に決まって怪我をして帰ってくる息子を見て、10歳の7月7日は仮病で学校を休むことを許可せざるを得なかった。俺はその日、冷房の効いたリビングでアイスを咥えながらソファに寝転び、この戦いの勝利を確信していた。


 だが、本当に恐ろしい事態は、俺の預かり知らぬところで進行していたのだ。


 そいつは、季節外れの転校生だった。


 急な親の転勤で突然現れ、たった一日でクラスに溶け込み、あっという間に中心に居座った。翌日、何も知らずに登校し様変わりしたクラスに戸惑った俺の方が、よほど転校生の気分だった。


 アイツは、何かにつけて俺に突っかかった。遅れてきたクラスメイトに、たまたま目をつけたんだろう。俺をはやし立て、からかい、ニヤニヤと、あるいは大声を上げて笑った。悔しかったが、運動に勉強にゲーム、勝てるものは一つもなかった。それからずっと、俺は付きまとわれることになった。

 7月7日の転校生。俺にとって、アイツは7の象徴だった。


 このままではいけない。


 そう一念発起したのは17歳の7月7日だった。このまま、アイツに負けたまま、7の呪いに負けたままでいるものか。


 俺は努力した。体を鍛え、本を読み、勉強にも励み志望校のランクを上げ、大学ではサークル活動に打ち込み忍耐力や責任感を培い人間的に成長しました。


 それなりの会社に就職し、馬車馬のように働いて、期待の若手の一人としての地位を勝ち取った。もう俺は、あの日学校をサボっていた子供ではなかった。


 そして、ついに今日、7の呪縛から解き放たれる時が来たのだ。


 27歳の7月7日。俺は満を持してアイツを呼び出し、これまでの全てをぶつけた。


 決意を込めた俺の言葉に、アイツは少し寂しそうに笑い、言った。


「七瀬って名字、結構気に入ってたんだけど……これで変わっちゃうんだね」

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