おおかみと七ひきのこやぎ
楠秋生
七番めのこやぎ
「学芸会の出し物はどれがいいかしら?」
先生の言葉に、女子が手をあげる。
「あかずきんちゃん」
「シンデレラ」
「おやゆびひめ」
それに対して男子から文句があがる。
「女か主人公ばっかりじゃん」
「それなら何がいいかな?」
「さるかにがっせん」
「ジャックと豆の木」
あがった演目を先生が黒板に書いていく。
七緒はそろっと手をあげた。
「おおかみと七ひきのこやぎ」
その後いくつか案がでたけれど、最終的には多数決で「おおかみと七ひきのこやぎ」に決定した。
七緒は内心にんまりした。かわいい役がたくさんあるほうが、票が集まるのは予想してたことだった。
役決めでも目論見通りこやぎの一匹にえらばれる。
「一番ちっちゃくてかわいいし、はきはきしてるから、七緒ちゃんが末っ子やぎがいいよ」
こうなるのも想定済みだった。
(お姫様みたいに一人で目立つわけじゃないけど、じつはこの末っ子が主人公だもんね。一匹だけ生き残る七番目ちゃんってラッキーだし、運がよくなりそう!)
おおかみ役は、クラスで一番乱暴者のでっかい康大がなった。
練習中、がおーって康大に追いかけられてきゃーきゃー逃げ回り、最後には捕まる女子を、七緒は(あの役じゃなくてよかった~)と眺めていた。
学芸会本番。
お母さんやぎがでかけて、みんなそれぞれの場所に隠れる。七緒はもちろん柱時計の中。きゃーきゃー叫ぶ女子の声が聞こえてきた。
(あれ?)
きゃーきゃーの声が、いつもと違うような気がする。七緒は柱時計の中で一人首をひねった。
その理由がわかったのは、劇の終盤になってからだった。
おおかみ役が康大から、クラスで一番かっこいい鷹人に変更していたのだ。台本を書くからと役を引き受けなかったのに、康大が舞台そでで転んで足をひねったからだそうだ。
あのきゃーきゃーは、喜びの悲鳴だった。
(なんてこと! アンラッキーだったのは、七番目こやぎの私だったのね!?)
おおかみと七ひきのこやぎ 楠秋生 @yunikon
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