ある賭博場の悪魔たち

――23日後。


 その場所に集っているのは揃って身なりのいい紳士たち。ただ、全員が人間にはない身体的特徴を持ったものたちばかりだ。


「いやあ。今回は確実に取れると思ったんですが……まさか、あんなことになるなんてねえ。いやあ、まいったまいった」


 ひとりがカチャカチャとむき出しの顎関節を鳴らしながら笑うと、


「しかし、お気の毒だ。不運な間違いに見舞われてしまうなんて」


 別のひとりがやじりのように先端が尖った尻尾を揺らしながら唸っている。


「ではこちらは全てワタクシが」


 緑色の円卓につく悪魔たちは目の前におのおの積み上げた銀貨を胴元に没収されると、全員が同じようにため息混じりの苦笑いを浮かべた。


 今回のに勝ったものはひとりとしておらず、賭け金は胴元バンカーの総取り。


 バンカーが銀貨でパンパンに膨らんだ皮袋をこれみよがしに鳴らしてみせると、賭けに負けたものたちから歓声が上がる。


――悪魔ワタクシたちにとってこの銀貨に価値はありませんからね。


「たまには予想外のことが起こるのも楽しいでしょう」


 バンカーが目を細めてそれだけ言うと、時空の狭間にある賭博場はなぜか和やかな笑いに包まれた。


「まあね。決まりきった展開は退屈なだけだ」


「いやあ、今回は面白かったですねえ」


「まったくだ。次は負けませんよ」


はあと少しだったのに、本当に残念でしたね」


「まさか、間に合わなかったなんてね……」




――そう、予定外のことが起こらないと賭けにはなりませんしねえ。


 バンカーは、また口角をぎゅうっと持ち上げて笑った。



 これは、永遠の時を生きる悪魔たちの暇つぶし。


 たまたま見つけた人間たちを言葉巧みに誘い、サイコロを振らせる。その出目の数で、一度に被れば確実に死にやられるほどの【不運】を等分し、1日1度ずつ届ける。


 そして、最終日……今回の場合は開始から30日目の終わりに、何人が生き残っているのかを賭けるだけの簡単なゲームだ。


 重ね重ねになるが、銀貨にはゲームを盛り上げる小道具以上の価値はない。そもそも悪魔たちにとって、賭けの結果は対して重要ではないのだ。


 悪魔たちは、ゲームに参加させられることで人より多い【不運】に見舞われながら、生き延びるために足掻き苦しむ人間を観察して楽しむためにこの緑の円卓についている。





 そして、ここにもこの遊びに表向きとは別の楽しみを見出した悪魔がいる。


「……まあ、【不運】の全てがワタクシたちの仕業というわけではないですからねえ。残念ですけど」


 バンカーは舌なめずりをする。口内を満たしたなんとも青臭い味を思い出し、その余韻に浸りながら……少しだけ表情を歪ませた。


「どうもごちそうさま、ミトワさん」





――ちなみに今回、は誰もいなかった。


 〈完〉



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アンラッキー・セブンスデイ 霖しのぐ @nagame_shinogu

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