第6話 ラッキー菜々

 「うーん」

 むしろ迷惑そうに七位の菜々ななが言う。

 「ちょっとラッキーだっただけだよ」

 わたしがツッコむ。

 「ちょっとラッキーでは七位は取れんでしょ?」

 「じゃあちょっとかなりラッキー」

 「ちょっとかなり」って、どういう形容?

 その説明はなかったが、

「だから、たまたま勉強してたところが出たんだって」

 そこで、わたしは、もうひとつ、ツッコむ。

 「だから、それで七科目九〇点超えはできないでしょ? たまたまだったら一科目かせいぜい二科目ぐらい」

 だから、それは正当に勉強した結果だ、と、菜々には認めてほしかったのだが。

 「それが七科目だからラッキーセブン

 菜々は言って、あのこちらの溶けそうな笑顔で笑った。

 いまは、溶けそう度が70パーセントぐらい。

 ラッキー菜々のラッキーなな

 「じゃあ、中間の赤点は、アンラッキーセブンだったの?」

 ここは、心理的に余裕が出てきたところで、基本的に反省してほしいところだ。

 「そうだねえ」

 菜々は、笑顔の溶けそう度をさらに7パーセントぐらい上げて、笑う。

 「だから、次はまたアンラッキーがめぐってくるかも知れないから、気をつけなきゃ」

 いや。そうではなく!

 わたしは学年スケジュールを思い出す。

 そして、ぞっとした。

 二学期の中間は、秋の体育祭のすぐ後にある。

 その秋の体育祭が、マーチングバンド部にとっては大きな見せ場なのだそうだ。

 そこでは、菜々はやっぱりマーチングバンド部の練習に集中するだろう。そして試験勉強なんかしないに違いない。

 その結果……。

 アンラッキーでもなんでもなく、補習必須の赤点科目が七科目を上回る!

 ……なんて事態も、十分に考えられるのだ。

 でも、わたしはツッコまなかった。

 いま。

 ボケ菜々の77パーセント溶けそうな笑顔は、とても明るく、輝いて見える。

 その笑顔をずっと見ていたかったから。


 (終)


 *現在、高校一年生の科目は、総合科目や探究科目が設置されて大幅に変わっているはずですが、この物語にはその新しいカリキュラムは反映していません。

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アンラッキーな菜々 清瀬 六朗 @r_kiyose

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