7の倍数と7の付く日は不運になる鍋島くん

清水らくは

7の倍数と7の付く日は不運になる鍋島くん

「鍋島ー、日曜野球来いよー」

「ごめん、明日は用事があって」

「えー、お前むちゃくちゃうまいのになー」

「いやー、また今度ね」

 危ないところだった。日曜日は14日、出歩いただけでもとんでもないことになる。そのうえ困ったことに、僕は野球が下手である。だけど、なんだかうまくいってしまうのだ。相手がエラーして、ボークして、パスボールして、何一ついいプレーをしていないのに生還できたりする。

 そう、僕は普段とても運がいいのだ。くじを引けば当たる。遅刻しそうになったらバスが遅れてくる。お金が無くなってきたらばあちゃんがやってきてお小遣いをくれる。多分、「とてもラッキーな星」の下に生まれたのだ――ったら良かったのだけど。

 定期的に、とんでもないことが起こる。鳥の糞が落ちてくる、大凶をひく、バスが事故で来ない。たまに、こんなことが重なる日がある。日頃のラッキーがアンラッキーにかき消されるのだ。しかも定期的に。

 幼いころは、週に一回そういう日があるなーと思っていたが、月末は続くことがある。どんなに気を付けていても何か起こる。なんか、ややこしい星だぞこれは、と思っていたが……ある日気が付いたのだ。

 アンラッキーなことが起こるのは、7の倍数と7の付く日だということに。



 14日、とにかく外に出ないようにと思い、布団にくるまっていた。たとえアンラッキーは避けられないとしても、家の中ならばまだましだと思うのだ。外に出れば犬が牙をむき、車が突進してきて、隕石が降って来るかもしれない。

 特に今日は危ない。2月14日なのである。貰ったチョコに毒が入っていたなんてアンラッキーはとてもじゃないが悲しすぎる。

 今週は気になる女の子と目があったし、宿題を忘れても先生に当てられなかったし、水やり当番の日に雨が降った。ラッキーが多いときほど、アンラッキーも大きくなる気がする。

「おなかすいたあ」

 とはいえ昼前にはとっても空腹になった。リビングに出ると誰もいない。みんな出かけてしまったようだ。冷蔵庫を開けると何もない。お菓子もない。缶詰もない。ここはモデルルームか! と思うほどに食べるものが何もなかった。

「外に出ねば……」

 覚悟を決めて、外出する。コンビニまで片道5分。ポケットに最低限のお金だけを入れる。

 極限の緊張感の中、なんと僕は、何事もなく家に帰ってきた。なんだ、「食べ物がない」「自腹でご飯を買う」ぐらいのアンラッキーだったじゃん、と思った。

 この時は。



 今月は、7の倍数が全部日曜日だ。学校が休みというのはある意味ラッキーである。学校で不運なことがあると、恥ずかしかったり、みんなに心配をかけてしまったりする。

 とはいえ今の僕は、気分がよくない。今日は2月26日金曜日。毎年、このあたりはとても憂鬱である。というのも、27日と28日は、連続アンラッキーなのである。不運も一日ならば耐えられるが、毎月ここで心が折れかける。しかも2月は、その後が短い。毎月29日から次の月の6日まではラッキーの続くロングゾーンで、そこで気分的に回復するのだ。だが、二月は28日まででロングゾーンがない。

「鍋島くんっ」

「ん? あ、桂川さん」

 バスを待っていると、クラスメイトの桂川さんに声をかけられた。あれ、バス通学だっけ?

「あの、学校では言えなくて、その……私と、動物園に行ってくれませんか?」

「えっ」

 何このラッキー! 桂川さんのことは、普段から気になっていた。おとなしくて控えめで、とっても目がきれいで唇が薄い。そういう子が僕は好きだ!

「突然ごめんなさい! 本当は14日にチョ、チョコを渡そうと思ってて……家に行ったら誰もいなくて……そしたら急に勇気がなくなっちゃって……」

 下を向いてもじもじする桂川さん。14日に誰もいないって……コンビニ行ってたあの十数分の間に来てたのか! アンラッキーだ!

「行こう行こう、動物園行こう! 来週の土曜とかどう?」

「あ、その日は用事があって……明日は?」

「あ、え、う……明日?」

 明日は27日だ! 7の付く日だ!

「ダメかですか?」

「あーうーわかった! 行こう動物園」

「やった」

 桂川さんが小さくガッツポーズした。かわいい。

 僕も、覚悟を決めたのだ。アンラッキーから逃げ続けていては、女の子とデートもできない。いつかは向き合わねばならないのだ。

 それはきっと今だ。ラッキーな日のうちに、決断しないと。



 日曜日、動物園最寄りの駅に着くと、パトカーが何台もいた。

「危ないですから近づかないでくださいー」

 メガホンで叫んでいる。え、何?

「キリンが脱走しましたー、今は園内にいますが出てくる危険性もありますので絶対に近づかないでくださーい」

 僕と桂川さんは目を見合わせた。

 キリンが脱走? そんなことある?

「動物園は無理ですね……」

 悲しそうな桂川さん。ごめんね、僕の不運のせいで。というか、7の付く日があるのが悪いんだ。



 次の日、風邪を引いた。しちし、28日。シンプルに運がないつやだ。これだから連続の時は嫌なんだ。考えてみると、昨日は動物園には行けなかったけれど、結果的にデートはできた。不運が小さいとみなされて、今日は大きめの奴が来たのかもしれない。苦しい。きつい。あー嫌だ。

 桂川さんは僕のことをどう思っただろうか。「こいつのせいでキリンが逃げ出したんだわ! いやだわ!」とは思わないだろうが、何回か繰り返したら気づかれるかもしれない。「この男と居たら不幸になる……」と。

 しかし! 7に関係ない日はラッキーな方なのだ。そこで何とか挽回するしかない。あーでも熱が出ていい案が思い浮かばないや……



 3月1日。すっかり僕は元気だった。運がいいなあ。

 ああ、この人生疲れるなあ……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

7の倍数と7の付く日は不運になる鍋島くん 清水らくは @shimizurakuha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説