レシート777
烏川 ハル
レシート777
「ねえ、タカシ。今の子、誰?」
「えっ? 『今の子』って、誰のこと?」
アキコの質問の意味がわからず、俺はほぼ同じ質問で返してしまった。
デートが終わって、俺の部屋に帰る途中。
コンビニに立ち寄り、飲み物とパンを買った直後の出来事だ。
コンビニに入るまでは二人仲良く手を繋いでいたのだが、さすがに店内では恥ずかしいので手を離して、レジで支払いの際もアキコは少し離れたところで待っていたのだが……。
「ありがとうございました」
決まり文句の挨拶を背に受けながら、コンビニを出る。
夕焼けに照らされたアキコの顔は、明らかに不機嫌だった。
「誤魔化さないで! 今のレジの女の子よ。あの子、ただの店員って感じじゃなかったでしょう?」
「おいおい……」
「何が『おいおい』よ。そう言いたいのはこっちだわ。だって……」
アキコは時々、おかしなスイッチが入ったみたいに突然嫉妬深くなる。どうやら今回もそれらしい。
「……あの子がタカシに向けてた笑顔、どう見ても営業スマイルじゃなかったじゃないの。しかも支払いとは無関係な、何かプライベートな言葉もかけてたわよね?」
アキコの言い方は大袈裟だが、確かに不必要な会話はあった。
ちょうど支払い金額が777円になり、レジの女の子は、そのレシートを手渡しながら「おめでとうございます」と笑いかけてきたのだ。
別にレシートの金額でくじが行われているわけでもなく、7が揃ったからといって実利的な意味は何もない。それでも一応、俺も笑顔で「ありがとう」と返したのだった。
「それだけじゃないわ。タカシの方でも、ニヤニヤ笑いを受かべて応じてたでしょ!?」
「いや、それは……」
確かに彼女は、少し元カノを彷彿とさせる部分があり、可愛らしい女の子だった。
「うん、ちょっと元カノと似ててね。そんな子がレシートを手渡しながら……」
俺は正直に告げる。こういう場合、少しでも隠し事をすると、後でバレた時に問題が大きくなるからだ。
しかし今日の場合、アキコは俺の言葉を途中で遮って……。
「何よそれ! だったら今夜、私じゃなくて、あの子を部屋に呼べばいいじゃないの!」
持っていた小さなバッグをバシンと俺に投げつけて、走り去ってしまった。
「おいおい、勘弁してくれよ……」
道に落ちたバッグを見ながら、俺は冷静に考える。
これはアキコが大切にしているバッグのひとつ。それを俺に預けた格好になるから、いずれ取り返しにくるはずであり、それまでには頭も冷えているに違いない。
彼女のバッグを拾う際、俺のポケットから先ほどのレシートがこぼれ落ちる。そこに印字された777円が改めて視界に入った。
あのレジの女の子が「おめでとうございます」と言ったように、7は普通ならば幸運の数字なのだろうが……。
恋人との喧嘩の原因になるくらいならば、むしろ俺にとっては逆。アンラッキー7というべきかもしれない。
(「レシート777」完)
レシート777 烏川 ハル @haru_karasugawa
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