7を7つ揃えた男

烏川 ハル

7を7つ揃えた男

   

 新型ウイルスの流行により、外出自粛が叫ばれていた頃。その影響もあって、家で出来る趣味を新しく始める者がたくさん出てきたという。

 七瀬康介が小説投稿サイトに登録して、素人小説の投稿なんて活動を始めたのも、そんな「家で出来る趣味を新しく」の一例だった。


 彼がそのサイトに登録したのは2020年4月の半ば。全体的な雰囲気を知るために、まずはサイト内の投稿作品を見て回ると……。

 何やら同じキーワードを含む作品がたくさん投稿されていた。それらは短くて読みやすい小説ばかり。

 最初は「これがWeb小説の流行ってやつか?」と思ったが、それにしては少し妙だ。頻繁に見かけるキーワードが「四年に一度」とか「最高のお祭り」とか「Uターン」とか、いかにも人気や流行とは違うっぽい単語ばかりなのだ。

 続いてサイトのルールやマナーなどを理解するために、ガイドラインだけでなく、随時発表される「お知らせ」という告知も少し遡ってチェックしたところで、ようやく謎が解けた。

 どうやら少し前まで、大きなイベントが行われていたらしいのだ。

 サイトの誕生祭と称して、運営側が毎日のように執筆のお題を提出。その「お題」に応じた作品をみんなが競うようにして次々と投稿する、という企画であり、彼が気になったキーワードは全てその「お題」だった。


「ほう。これは面白そうだ」

 彼にしてみれば、家に閉じこもるのが退屈だから小説でも書いてみようか、という程度の気持ちで登録した小説投稿サイトだ。積極的に書きたいものがあったわけではなく、サイト側から執筆テーマをもらえるのであれば、むしろ好都合に思えた。

 そんな彼も、一年近くそのサイトで遊ぶうちに、色々と「積極的に書きたいもの」が生まれて……。

 それでも2021年3月、彼にとっては初めての「誕生祭」の季節。かつての「面白そう」という気持ちは忘れておらず、与えられた「お題」に応じて、嬉々として短編作品を投稿していくのだった。

 翌年の2022年3月も当然のように「誕生祭」を楽しみ、そして2023年3月。

 また「誕生祭」シーズンがやってきた。


「おっ、これも面白そうだぞ」

 今年の「誕生祭」では、例年以上に「書くだけでなく、読んでも楽しめる」という企画がいくつも用意されている。彼が着目したのは、その中のひとつ「読書量くじ」だった。

 定められた期間中に読んだ文字数の合計をくじ番号として、抽選でプレゼントがもらえるという。一等は下7桁、二等は下6桁、三等は下5桁の数字で決まるそうだ。

 その企画に釣られて、いつも以上に積極的にサイト内の作品を読んで回ったところ……。

 彼の期間中の読書量は、ちょうど7,777,777文字となった。

「ふふふ……。7が7つ揃うなんて、これは縁起いいぞ」

 彼の頭に「ラッキー7」という言葉が浮かぶ。7を幸運の数字とする考え方だ。そもそも彼の名前「七瀬」にも7が含まれているため、一般の人々以上に、彼は小さい頃から「ラッキー7」を強く意識していた。


 そして、いよいよ結果発表の日。

 ワクワクしながら当選番号を確認したところ、二等も三等も「7」を全く含まない数字。一等だけは思いっきり「7」が入っていたが……。

「『7777778』!? 俺の『7777777』とひとつ違いか! これじゃ『ラッキー7』どころか『アンラッキー7』じゃないか!」

 あまりの悔しさゆえ、自然に目を閉じながら、天井に顔を向ける。

 こんな時でも、ふと「今まで小説の中で何度も『思わず天を仰いだ』という表現を使ってきたが、自分で実際にやったのは初めてかもしれない。なるほど、こういう気分だったのだな」と考えてしまう七瀬は、もはや立派な素人作家になっていたのだろう。


 ちなみに、今回の「読書量くじ」企画に関して、彼は大事な点をひとつ見落としていた。

 二等や三等とは違って一等には前後賞もある、ということだ。

 七瀬は結局、賞品が送られてくるまで、それに気づかないままだった。




(「7を7つ揃えた男」完)

   

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7を7つ揃えた男 烏川 ハル @haru_karasugawa

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