推しメーカー【アンラッキー7】

沖綱真優

第6話

 スケジュール帳の仕事の枠が埋まらない。ダンスも歌も、レッスン代がバカにならない。ハコ代だけは事務所持ちとはいうけど、天引きだろ。

 一年経っても給料明細のケタが五つから増えない。家賃に水道光熱費、スマホ代引き落とされれば、食費と雑費で完全消滅。

 通帳残高も増えない。地方都市の地下アイドルったって、私服も気配らないと幻滅される。シャツもジャケットもスカートもブーツもバッグもファンデも欲しい、メッシュも入れたい。

 毒親と縁切って都会出て、憧れの仕事でエンジョイってハズ、寝る間もないほどバイトなんてツマンナイ。

 ダサジャージで朝イチ並んだスロットマシン、今日も順調順調。メンバーみんなは昼バイト掛け持ちか、夜バイトがほとんど本職かってトコだけど、あたしの天職パチ屋にあった。元テニス部の動体視力で目押しのパチスロ。

 粘って粘って、十時間。パチ屋のカレーだけで、ひたすら回して——

 キタ。

 ラッキーセブンの大当たり。今まででサイコーに当たった。途中交換分も合わせて十万くらいか。めちゃ出たからパチ屋の店員がジロジロ見てきて、適当に笑い返した。


「やった。コレ続けたら、引っ越しとかできるじゃん……東京行っちゃうかぁ」


 交換してトイレ寄って外出たらもう真っ暗。階段降りて、一階駐車場を歩く。蛍光灯はちらちら頼りなく薄暗い。夜ご飯は久々ファミレス寄ってみっかぁ。腹減った、疲れた、眠い。ショボついた目を擦った刹那、横を通った車が突然開いて——。




「現役女子高生アイドルグループ、天然オラシオンのミカちゃんだよね」


 頬を何度か打たれ、目を開ける。

 男、パチ屋の店員が問う。口は開かない。テープ。両手も足も。頷く。何度も。


に、貢いでたんだよね」


 騙すなんて、許さない。


 ズブリと、ナイフ。

 目の前が真っ赤になって、世界が真っ赤になって、急にぜんぶグレーになって。パチンと真っ黒になった。

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推しメーカー【アンラッキー7】 沖綱真優 @Jaiko_3515

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