誰にだって性癖というものはあるものです。
それを隠してるか、隠す必要のないものか、個々人にはそのくらいの違いしかない。
誰もそれが、たとえどんな人に言えないことだって、笑ったりはできないのです。
ただ、それが人間の社会性という防壁を超えて滲み出してしまうことがある。
この話は、それが自分でなく他人によって晒されることで、かえって自身の内面と対峙せざるを得なくなってしまった人間の話なのだと思います。
ありふれてないようで、ありふれていること。またはありふれていても見て見ぬふりをすること。
この作品の主人公と私の違いは、それくらいしかありません。
筋骨隆々な男の人に殴られたい。
そんな性癖を持っていた主人公は、自分のそんな抗えない性欲と恋愛感情のギャップに悩まされながらも、憧れの先輩の筋肉を見ながら妄想をする日々を送っていた。
──あの日までは。
自分の中にある、欲望と社会との擦り合わせ、それはどれだけ多様性が叫ばれるようになっても難しい。
性癖の在り方で、救われない人はたくさんいる。
作中で起こる事件の後、それをどこまでも自分自身に突きつけられていく主人公の様子は痛々しく、読んでいて心が締め付けられる。
性欲と恋愛感情のギャップに少しでも悩んだことがある人になら、皆に読んでほしい作品。
まさかこんなにも心揺さぶる作品が、KACの「筋肉」のお題からうまれるとは思わなかった。