17 エピローグの転生女騎士は、元殺し屋だけど殺さない!



 洪水で大きな被害を受けた穀物地帯を訪れた、王太子ヨウシアと友好国の幼き第二王子リュシアンによる慰問は、グラナート王国内で大評判となった。

 

 バルゲリー王国に伝わる『豊穣の祈り』ができるという小さな第二王子(光魔法のド派手な後光演出つき)が祈るや、泥まみれの畑が青々と芽吹きだしたからだ。

 目の前の光景は、絶望に打ちひしがれていた民衆の心に、あっという間に希望という名の灯りを点けた。

 「奇跡だ!」「救いだ!」「神よ!」「うちにも来てくれ!」と、バルゲリー王国との国交を喜ぶ王国民の世論の波に、さすがの国王も逆らえなくなったことこそ、アレクサンドラの意図したものである。

 

 だが吟遊詩人たちがこぞってこの奇跡を、バルゲリーの小王子と『怜悧な美貌の女騎士』のなせるわざである! とドラマティックに歌い出してしまい――やがてそれが本国にまで伝わってしまったのは、まったくもって想定外だった。


 それを聞いたラウリは当然、複雑な心中を持て余す。


「アレックスのことが、こんなにも知られてしまうなんて」

「はあ。まったく無責任な詩人どもめ」


 沈んだ民の心が上向くのなら、とあえて否定しなかったとはいえ、アレクサンドラもやはり複雑なのだ。

 


 王宮の中庭。

 ガゼボでお茶を楽しむそんな二人の間を、さわやかな秋風が吹き抜けていく。

 


「だがさすがだな。『殺されない価値』があれば良いなどと、俺には到底思いつかなかったよ。『奇跡』を害しようとする者なんてよっぽどだし、むしろバルゲリーの王族と縁を結びたいと、方々から縁談が舞い込んで良い抑止力になっている」


 豊穣の祈りを受け継ぐ血統があるとしたら、この世界では比類なき価値のあるものに違いない。

 

「ただの思いつきだ」

「前世の知識、か?」

「……そうかもな」


 ラウリの赤い瞳が、アレクサンドラを射抜く。


「それでも後悔は、打ち消せないか」

 


 ――私は、血みどろなのだ。

 


「救っても救っても、足りないか」


 

 ――殺しただけ、救ったところで……


 

 そんなアレクサンドラの心を見透かしているのか、腹黒宰相は、答えがなくとも、ふうわりと笑むのみだ。


「ああ、良い香りだ。貴女はまるで金木犀のようだな」


 顔を上げると、咲き乱れるは、金色の花々。華やかで儚い香りが漂っている。


「気高い人、という花言葉なんだよ」

「つくづく、よく知っているものだな。感心する。今はそんなことより、リュシアン殿下だ」

「ったく、情緒がないねえ。ま、どうするかね」


 

 ヨウシアを王太子にゴリ押しした、グラナート王国の筆頭公爵家。

 そこの令嬢(十歳)が、なんと夜会でリュシアン(七歳)に一目惚れしたのだそうだ。


 

 当のリュシアン本人は

「ええ!? 僕、あの、アレクサンドラのお婿さんになりたいし!」

 と逃げまくっている。


「まさか、第二王子が俺の恋敵とはなあ~」

「真面目に考えろ」

「大真面目だよ。どうしたらアレクサンドラが、俺と結婚してくれるのか。毎日考えている」

 

 立ち上がったラウリが歩み寄ったかと思うと、椅子に腰かけるアレクサンドラの脇で、胸に手を当てながら地面に片膝を突く。

 

「どうしたら、貴女と共に生きられるのだろうか」


 真摯な赤い目は、まるで誇らしく咲く薔薇のようだなと思った。


 

 ――既にこうして、側にいるではないか。


 

 その言葉を吐き出すことはせずに、アレクサンドラはラウリの肩越しに、無言で鋭くナイフを放つ。


「ぐあっ!」


 影が、腕を押さえながら木陰から倒れてきた。


「やれやれ。ほーんと、懲りないねえ」

「だから、無駄に己をまとにするなと言っただろう。馬鹿か!」


 

 どうやら粘着質な隣国の王は、ラウリのことだけは諦めないらしい。

 


「はっはっは。これが続くってことは、そうやってなんだかんだ、守ってもらえるのか~幸せだな?」

「ちっ、いっそ殺してやろうか」

「それでも、いいさ」


 切なそうに笑うラウリにアレクサンドラは、

 

「私は……、……殺さない」

 

 ――ようやくそれだけ、言った。


 


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 最後までお読み頂き、本当にありがとうございました!

 名残惜しいですが、最終回となります(文字数)。

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転生女騎士は、元殺し屋だけど殺さない! 瑛珠 @Ei_ju

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