枯れない花と一緒

玄米

枯れない花と一緒

 大事に育てていたキキョウの花が、ある日突然枯れた。花が枯れたことよりも、約束を果たせなかったという事実がショックだった。苛立ちのような悲しみが視界を埋めつくす。


「花は散るものよ」


 慰めるように、君は私にこう教えてくれた。ずっと美しいものはない。だけど、最後まで美しくあろうとする。それこそ、花が持つ本当の美しさなんだって。


 私たちが園児だったころだ。当時は理解できなかったけれど、今ならわかる。終わりがあるからこそ、美しい。不器用な君は、そう伝えたかったんだ。


 でも、最近は枯れない花、なんていうのもあるらしい。造花とかプリザーブドフラワーみたいな加工品じゃなくて。陽を浴びて、水を吸って、咲き誇る、生きた花。品種改良でたまたま作り出されたんだ。再現性は低いから、市場に出回っているのは高価なんだけど。世話さえしっかりしてれば永久に残るから、人気があるんだとか。


 そんな花を知ったら、君はなんて思うのだろう。やっぱり「そんなのは美しくない」って言うのかな。でも、今の君はそんなことを言う余裕もないよね。ごめん。でも、君もわかっていたでしょう?私は欲しいものがあったら、絶対に手に入れたいとなってしまう性分だって。


 だから、私は枯れない花についても素直に欲しい!って思った。もちろん、毎日欠かさず世話をする。あの日以来、花の手入れについて勉強したから。小学校では私がいちばん長く朝顔を咲かせるぐらいには上手になった。君が「すごいね」と褒めてくれたのは記憶に新しい。


 さすがに今、購入したら生活が苦しくなるから、技術が進歩するまで我慢だけど。いつか誰でも買えるような時代になると信じている。


 君も、私のことを信じていてくれたのかな。突然の誘いでも、疑わずに姿を現してくれた時は嬉しかった。ああ、やっぱり私には君しかいないんだと、確信に繋がった。幸福だよ。


 今だから本当のこと言うけれど。私は君のことが大好きだった。友達以上に。君のこと、全部知りたいって思ったし、私だけのものにしたかった。だけど、君にも君なりの考えがあって生きてるわけで。それは否定しないし、応援もしたい。だけど、奥歯を噛み締める音が段々と大きくなる。歯にも血が通っているんだなと気づいたのは中三の秋。色々と手遅れだった。中学生ってバカだよね。


 枯れない花の存在を知ったのは高校に入ってから。違う高校に入学して、連絡もあまり取らなくなった君が知っていたかは分からない。私はその花を見て、真っ先に君の顔が思い浮かんだ。


 枯れない花。それは永遠に美しいもの。永遠、という言葉が私は好き。未来も現在も置き去りにしているような、特別な時間軸で生きてるみたいだから。辛い現実も、永遠の刻に比べたらちっぽけに感じる。短命な人間では想像することしかできない世界。私にとって、君はそういう存在になった。


 そう。君は永遠。もはや違う世界を生きている人間だ。私は想像することでしか、君を知ることができない。だけど、それでいい。他人が何を考えて生きているのかなんて、元から分かりっこないから。自分本位でもいいでしょう?


 今はただゆっくりと眠っていてほしい。


「おやすみ。カレン」


 そっと口づけを交わす。薄暗い部屋には私たちだけ。冷たくなった箱の中で、君が目を開けることはない。


 花瓶にそっと花を添える。


 ようやく手に入れた、枯れない花。


 これで、永遠に一緒だ。

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