気分は戦国武将

如月姫蝶

気分は戦国武将

 奴らは突如、音を立てて謀反する。


上杉謙信うえすぎけんしんは、家臣が謀反を起こしても、帰参すれば許した——なんて話を聞くな」

「もとい、豪族なんぞを支配下に置いても、明確に家臣とはしなかった。よって、自主性を保った豪族どもが離合集散を繰り返すのを容認せざるを得なかった……みたいな?」


「そうかわかったぞ。俺たちはみんな上杉謙信なんだ。そして奴らは、家臣という認識に乏しい豪族みたいなものなんだ」

「あー……まーなあ、物は言いようか……」

 現状、独身男だけが三人集まった円卓を、生暖かい視線が行き交った。

「まったく、主君の脳からの司令には従ってほしいよ」と、上杉謙信A。

「それでも筋肉は謀反する。俺は三十才にして初体験したぞ。さあ温泉に浸かろうと湯船の縁を跨いだ瞬間、ピキッという音を聞いたんだ」

 上杉謙信Bは、なぜか胸を張った。

「俺は、バリバリッ……みたいな?」

「スパーンだったな」

 上杉謙信CとAも、各々の初体験の音を披露した。

「温泉だったのがせめてもの救いだな。よく温めて休めたろ?」

「それが、冷やしたほうがいいぎっくり腰だったんだよ。しかも、嫁の趣味で、美肌の湯だったしなあ」

「おのれ貴様、結婚歴があるのが、そんなに偉いのか!」

「ふん、まだ病気自慢に専念するお年頃ではあるまいて!」

 CとAはBを敵視したが、現状、上杉ーズは、全員独身である。


 風雲急を告げるかと思われたその時……

「ねえねえ、武田たけださんが欠席だって。彼女、急病らしいよ」

 同窓会の幹事が、上杉ーズの円卓まで知らせに来た。幹事は、三人が存分に顔を曇らせるのを見届けてから、「五十肩が酷くて、腕が上がらないんだって」と、しれっとばらして立ち去ったのだった。

「五十肩だと? 俺たちはまだ四十代だろ? 皆の者……」

「いや、武田さんは一浪してたはずだし……」

 待ち人来たらずと知った戦国武将たちは、たちまち死屍累々と化したのだった。

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