既婚者の姉と関係を持つ弟が主人公で、更にタグにはNTRの文字。そこだけ見るとちょっとゲスいお色気系の作品かと思い、正直なところ最初は読む気がしませんでした。しかしよくよくあらすじ等を見るとアンチブルー文芸や純文学ともある。ならばふざけたものではないのでは?と試しに読んでみることに。
結果、読んで良かったと思っています。
主人公である陽一の捻くれ具合がリアルで、確かにこのくらいの年の頃は周りに対してこんな不満を抱いていたなと少々恥ずかしい記憶が呼び起こされました。
一方で姉はどこかふわふわしていています。読みながらこんな姉じゃそりゃ弟もブレーキが効かないよなとか、大人ならもう少しうまく躱せないものかなと色々考え、そのたびにそういえば冒頭で陽一が姉を馬鹿だと評していたと思い出して納得する、というのを繰り返しました。
それから陽一の周りにいる彼の家族は、彼視点という部分を抜きにしてもなかなか「クズでは……?」と言いたくなる人ばかり。陽一のしていることは決して許されることではないし、きっとその先は幸せになることはできないと思うものの、近くにいる大人がこんなでは彼が姉との関係に逃げ道を求めてしまうのも無理もないのではと同情してしまうほど。
周りはみんな馬鹿ばっかりだと周囲を見下す陽一が、倫理に背く行為をしながら自分には「姉」以外に何もないと思い知らされていく。しかし許されざる関係である以上、そんな依存もいつまでもは続けていられない。
リアルに描かれた陽一の心情を通して、彼の世界の歪みや人間の弱さが味わえる作品です。
近親相姦がベースになっていることもあり、激しく人を選ぶ作品かと思います。私も読み始めるのに大変躊躇しました。が、短編版を読んだ結果、最終結末まで書かれたこちらの作品を読むことに決めました。読んで良かったなと心底思っています。
世間から疎まれる事象にのみ救いを見出してしまった人間というのは、意外と多いと思います。この物語の主人公は実姉という存在ですが、例えば幼児に。親に。教師が生徒に。人間以外の動物に。犯罪行為に。希死念慮に。自分、もしくは他人を傷付ける行為に。
そういった「社会不適合に組み込まれた人間の心理」が非常にリアルに、生々しく描かれています。葛藤と自己弁護からの自己否定の流れがあまりにもリアルすぎる。あれ、これ自伝じゃないですよね…?
陽一は一生懸命良い子の仮面を被りながら、心でずっと叫び続けています。これが聞けるのが小説の醍醐味であります。全章、本当に心の声が素晴らしい。
わたしは後半の「なんでこんなことになったのかな!?」という台詞がとても好きで、
「そうそう、ズルズル流れに身を任せてるうちに後戻りできなくなって、本当はこんなところまで来たくなかったのに!って状態になっちゃうんですよね。わかる」
と共感しました。うーん、最高にツライ。
悲しいかな、彼は頭が良かった。要領も良かった。もう少しばかり愚かであれば、救いはあったかもしれない。果たして彼はクズなのだろうか?選択肢自体はクズかもしれないが。でもそれで切り捨てることは絶対に出来ないくらいに悲しい存在。
幸せな顛末にはならないからツライな、と思いながら読んでたけど予想以上にツライ顛末で「秋犬やめて差し上げろ」と声に出てました。容赦なさすぎます。
人間の暗流好きな人には間違いなく刺さる作品です。
いやー、キツかったですねw
でも大好きです。