目指すはターミネーター

神山れい

目指すはターミネーター

「わたし、マッチョな人が好きなの。アーノルド・シュワルツェネッガーみたいになったら考えてあげる」


 今日、俺は好きな子に振られた。マッチョな人が好きだから。そう言われて。

 鏡の前で利き腕を曲げ、力を入れる。上腕二頭筋は盛り上がっている、ようには見えない。結果は分かり切っているのに、逆の腕も曲げて力を入れてみる。もちろん、先程と同じだ。腕をだらりと下ろし、俺はため息を吐いた。

 アーノルド・シュワルツェネッガーみたいになったら考えてくれる、とは言われたが、ターミネーターの人じゃないか。俺は鏡に映る自分自身を見た。身長は高めだとは思う。身なりだって整えてるし、顔だって悪くない、はず。

 問題は体付きだ。これまで、筋トレなんて自ら進んでしたことがない。最近よく聞くプロテインだって飲んだことがない。ヒョロガリ、と言われる部類に入るだろう。ターミネーターには程遠い体付きだ。


「今からでもターミネーターになれるのか……?」

「え、きも。鏡の前で何してるのかと思えば、きも。お兄ちゃん、少し遅れて厨二病にでもなったの?」


 洗面所を覗き、俺の悪口を言ってどこかへ行く妹。厨二病じゃない、俺は真剣にそう思ってるんだ。

 好きな子に好かれたいと思って何が悪いんだ。

 洗面所を出て、俺は二階にある自室へ入った。スマホを手に取り、登録しているサブスクで検索をかける。もちろん、検索するのはターミネーターだ。

 小さな画面に映し出される、丸裸のターミネーター。いつ見てもすごい筋肉だ。彼女はこんな人がタイプなのか。


「……俺だって、なってやる!」


 スマホを床に置き、画面を見ながら腕立て伏せを始めた。まずは百回。大丈夫、俺ならやれる。

 そう、俺なら──。


「……嘘だろ、もっと出来ると思ってた」


 二十回が限界だった。

 こんなのでターミネーターになれるのか。いや、なってみせる。

 好きな子に振り向いてもらうために。

 

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目指すはターミネーター 神山れい @ko-yama0

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