眠れない夜は七七七を数える

羊蔵

眠れない夜は七七七を数える



 不眠症でもがき苦しんでいると、窓の外から夜祭りの噂が聞こえてきた。

 どうせ眠れないのだから、と行ってみることにした。


 零時を過ぎた頃だというのにまだ店が出ている。

 引っ越したばっかりで知り合いがいない。ここら辺ではこれが普通なのだろうかと納得しておいた。

 たぶん七日も寝ていない。朦朧として夜祭りを巡っていると、獣の臭い。

 人混みの中に羊をみつけた。

 見間違いかと思ったが、他にも何人かが羊を見て驚いている。

 羊は我々を誘うように背を向けた。

 羊を追って行くうち、我々は夜祭りの灯りから離れていった。

 夜祭りの喧噪に比べ、都心部はまっ暗の空っぽだった。


 驚いたことに夜に歩く羊は一匹ではなかった。

 跡を追っていくと、人気の絶えた交差点に、羊が一匹、また一匹と合流してくる。

 そのたび自分は羊を数えていった。

 自分が知らないだけで、都会の羊はこうやって夜に放牧されているのだろうか、などと考えた。下水道のワニよりは有り得そうな話だ。

 一五六匹まで数えた所で、変な事に気がついた。

 羊の姿が少しずつ異様なのだ。

 毛がなかったり、顔が扁平だったり、ヒザが逆関節になっていたり、瞳が人間そっくりだったり、他にも色々だった。

 さらに四五六まで数えると、二足歩行の羊まで出てくる。

 羊を追っていたのは自分だけではなかったはずだが、彼らの姿は羊に紛れて見分けがつかなくなっていた。

 ぐちゃぐちゃ。前を歩いていたカーディガンの羊が話しかけてくるのだが、なんといっているのか分からない。

 そのあたりになって、自分はようやく事の異常さに気づき、そっと群れの流れから抜け出した。

 逃げ去る寸前、群れの方から、

「あと三二一匹だったのにね」

 という声がした。


 羊について行った人たちはどうなったのだろう。

 調べたが、その地域で夜祭りがあったという記録は見つからなかった。

 きっと自分は夢を見ていたのだろう。

 不眠症はまだ続いている。

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