深夜の散歩で起きた出来事 第4回

工務店さん

第1話 遭遇

地方都市に住む沖田さんの話。

近年、駅前付近が開発され、複合型商業施設が入り、店舗の種類は都会に近くなる。

働き口が増えたことで、都会に出ていた若者が、町へ戻り働く事も増えた。

沖田さんも、その一人。

都会の家賃で苦しめられたので、実家に住みつつ、商業施設の飲食店の遅番で、閉店まで働いている。

彼の実家は、山を背にして、4合目程に建っている。

道も舗装され、街灯もしっかりあるので、終業後は毎回のんびりと深夜の散歩気分で帰宅している。

ソレもそのはず、飲食店の閉店時間はAM1時、そこから閉店作業をして、商業施設を出る頃には2時を過ぎているのだから。

山がある為か、夜中には色々な動物も見掛ける。

(夜行性なんだろうな)と、ボーッ考えながら歩を進める。

たまに、シルエットで、妙に長い胴をもった奴もみえるが、(気の所為気の所為)と目線を反らせている。

山側に光は届かないので、夜行性動物の目が光る等は無いが、少しの光でもあると、目が光るのが不気味だ。

ある日の深夜、いつも通り実家へ向かっていると。

背後から鈴の音がした、1つでは無く、まとめて何個かを一緒に鳴らした音に振り向くも、視界には音の出処は無かった。

前に向き直り、数歩歩いたら、何故か地面が無かった。

『本当に漫画か?と思うくらいスカッとね』

沖田さんは、そのまま穴へ吸い込まれた。

目が覚めた、周りの壁が土だった。

上を見ても、落ちてきたはずの入口が見えない。

真っ暗なはずなのに、周りが見えているのも不思議だった。

一方の壁に黒い空間があった。

ここに来いと言わんばかりだが、ここは進むしか無い。

中に入ると、洞窟かな、高さは2メートルくらいあるから、立って歩けるし、幅も1メートルはあるので余裕だ。

穴をひたすら進み、約30分くらい歩いたかな。扉があった。

戸惑うこと無く開けてみた。

そこは、俺の実家の蔵だった。

蔵は5個かあって、出てきた蔵は鍵が紛失していて、中に入れない蔵に違いなかった。

何故判るかだが、実家に戻った関係で、新しい蔵(それでも50年モノ)から順番に、片付けをしていた。

ビフォーアフターのつもりで、毎回スマートフォンで開始前と後に写真を撮るようにしているので、意外と記憶に残っているものだね。

今出てきた、この蔵は電気も来てないし、何より中が埃が凄いんだ。

スマートフォンのライトを付けて、中をざっと見回すと、どの蔵でも決まった場所に、鍵を掛ける場所があるのだけど、そこにさ、この蔵の鍵束があったよ。

普通は有り得ないのさ、外で管理するモノだしね、まして鍵束よ。

念のため鍵束を鞄に突っ込んでから、外に出られる場所を探した。

入口からみて左手奥の左壁に木製の扉があった、ドアノブは無く、鍵穴だけがあった。

鍵束を出して、全部試してみた。

一際軸の太い、昔ながらの鍵が「カチッ」と小気味良い音を立て、それがドアノブの役割なんだろうね、外へ向けて開いた。

その時は気付かなかったんだ、壁に扉があったのだから、手前に開くはず、なのに外へ向かって開いたんだ。

蔵の壁って厚いんだよ、中にめり込むなんて有り得ない。

外に出たい気だけが逸ったから、理解も放棄していたんだよね。

見覚えのある、蔵が見えたよ。

その時に、鍵束はしっかり抜いておいたよ。

扉を振り返ると、そこには蔵の壁しか無かった。

(あれ、俺は今どこから出てきた?)

それも一瞬で消えて、早く帰らなくちゃだけだったね。

時計を見たら、4時を指していた。

貴重な睡眠時間を、変な穴に奪われたって、少しイラツイてたね。

彼の部屋は、離れにあるので、さっさとシャワー行って寝たよ。

翌朝、いや昼頃に起き出して、家族のいる母屋に向かった。

両親と祖父母がいたので、鍵束を見せることにした。

帰り道のエピソードも添えて。

話を聞いた祖父から、似たような話が聴けた。

祖父も若い頃、深夜に目が覚めて、眠気を求め深夜の散歩へ出掛けたそうだ。

当時は街灯なんて殆無くてね、月明かりだけが頼りだった。

祖父も山間で、胴の長い何かを見て、少ししたら鈴の音を聞いた。

その後、穴に落ちて、洞穴を進んだら、扉が出てきて、開けたら蔵の中。

蔵は沖田さんの出た蔵だった。

祖父も鍵束を見つけ、左手奥の扉も見つけて、外に出た。

その時に出られた嬉しさで、鍵束はそのままにしてきた。

『だから、俺は出られたんだろうな、祖父には感謝しか無いよ』


昼食の後、父と祖父とで件の蔵へ赴き、鍵束を試したが、どれとも合致しなかった。

入口にある南京錠他、扉に仕掛けられている鍵が見つからない事には入れない。

何より、祖父と孫を助けて(?)くれた蔵の鍵を壊す気にはならないんだよね。


以上、『深夜の散歩で起きた出来事』でした




この話は、取材した中で、『怪談』には分類されない為に、記録されていた話です。

たまには、こんな話も聞けると思いつつ、後日昇華出来るかは、また別のお話です。


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深夜の散歩で起きた出来事 第4回 工務店さん @s_meito

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