5月22日②:そういう話題を振れる特権さ

さて、今日も元気に部活記録へ・・・の前に、悲しいお知らせを聞かなければならない

「えー・・・6月3日からテスト期間です。今年は少し早めです」

「うわああああああああああ!」

「やめろおおおおおおおおお!」


真面目な話なのに全力で叫び声を上げるのは廉と藤乃

この二人にとってテストという概念は本当に、大変な事象なのだから


「廉、藤乃・・・死ぬなよ」

「自分のことが優先だから・・・そういうことで」

「面倒は見ないからな。赤点なら考える」

「「すでに赤点を取る前提で話を進めないでくれるかな!?」」


藤乃と廉に付き合うほど、俺たちに余裕があるわけでもない

俺はプライドの為に、絵莉と尚介は進路の為に頑張る時期だから


「頑張ろうね。悠真」

「ああ」


純粋に進路の為に頑張る周囲に紛れ、好きな女の子に格好をつけるために頑張るなんて、不純すぎる動機だと思う

しかしそれで頑張れているのだ。今回も頑張らせて貰う

今回も、羽依里に格好をつけられるように


「ま、まあ・・・とにかく、進学を決めている皆さんにとっては重要なテストになりますから、心して挑んでくださいね」


返事をした後、ホームルームはおしまい

俺たちもまた、動き出す


「廉、大丈夫か?」

「これが大丈夫に見えるのかい?」

「「見えない」」

「羽依里ちゃんまで言うんだ・・・」

「うん。流石に付きっきりで勉強は見られないけれど・・・」

「一緒に試験対策するぐらいはできるからさ。とりあえず元気出せ」

「助かるよ・・・二人がいれば百人力だ」


疲れ切った笑みを浮かべて、廉はやっと椅子から立ち上がってくれる

・・・ちなみに藤乃は絵莉と尚介が宥めている

ふと、絵莉と尚介と目が合った

その瞬間、絵莉がスマホを使って俺にメッセージを送ってくる


『こっちは任せて。部活記録に』

『あと、藤乃が暴れるから華道部の話題は外でして』

『了解・・・。そっちは任せる。ありがとう。尚介にも伝えておいてくれ』

『りょ』


絵莉に返事をした後、俺たちも仕事に移る


「向こうは大丈夫かな?」

「二人に任せよう。俺たちには俺たちのやることがあるから」

「そうだね。お待たせしちゃったし・・・巻いていこうか!」


今日は廉を交えて行う部活記録

予定としては、最初はあの場所になる

今の藤乃にはちょっと聞くに堪えない単語だから・・・


「とりあえず、移動しながら話そう。巻くためにもな」

「あ〜なるほどね。了解だよ」

「うん」


荷物を持って廊下へ出る

目的地へ歩きながら、今日の計画を話していく


「最初、華道部でしょ?」

「どうしてわかるの?」

「昨日も一昨日も、悠真は教室内で予定を話していたでしょう?」

「うん」

「悠真は段取りの確認だけはきちんとするんだ。バイト先でもそうなんだよ」

「へぇ・・・」


廉と羽依里の会話にはあえて入らずに、耳を傾けるだけにしておく

廉は身近にいる同世代の中で、羽依里も知らない「バイト先の俺」を知る存在だから

羽依里も興味がある話だろうと思って、少し照れるが・・・廉の好きにさせておこう

しかし、しかしだ


「段取り確認だけってどういうことだよ」

「千夜莉さんの接待は基本的に忘れているみたいだから。いつも「水っ!」って怒られてるし」

「伯母の接待は業務外だ!」

「千夜莉さんならやるね・・・え、千夜莉さん?」


羽依里の目が俺と廉を交互に移動する

これ、言っていいの?知らないふりをしておいた方がいいの?

色々と言いたいことが伝わってくる目線は流石に見ていて申し訳がない


「・・・羽依里ちゃんは、知っている感じかな?」

「少なくとも、千夜莉さんが何を専門に撮っているかは知っているな」

「あちゃー・・・悠真、弁明よろ!」

「勿論だ」


羽依里が知る情報を考えるに、彼女が変な誤解をしてしまうかもしれない

現在進行形でしているかもしれない

流石にそれは今後の廉に対する印象がよろしくないし、きちんと説明しておこう


「羽依里。安心してくれ。今回の仕事は化粧品の撮影だから」

「千夜莉さん、化粧品も撮るんだ」

「ヌードとか水着が専門だけど、下着とか化粧品とかの宣材写真も撮るからな」

「うん。千夜莉さんの写真はなんというか、空気が艶めかしい写真だもんね。廉君もそんな空気に仕上がっているのかな」

「そうだね。今回は口紅の広告だから。色気強めで撮っていただきました」

「駅前に広告出てるから、帰りに見に行くか?」

「・・・刺激が強そうなのでやめておきます」

「そっか。ちょっと残念。頑張って色気を出すために、上半身まで脱いだのにな」

「ぬい・・・」

「そういう話題はセクハラで訴えるぞ?」

「あはは。少しからかってみたくてね。初心だねぇ」


余計なお世話だ

羽依里の心臓に変な負荷がかかったらどうしてくれる


「ねえ悠真。余計なお世話かもしれないけれど、キスぐらいはもうしてるよね?」

「してないが」

「・・・今時、純粋なお付き合いしてるカップルとかいたんだ。絶滅したものかと」

「むしろ廉は付き合いに何を求めているんだ」

「そりゃあ勿論せっ」

「テスト勉強見て貰いたかったら今すぐ口を閉じてくれ。その単語は羽依里に聞かせられない」

「すみませんでした・・・って、キスもまだならそれもまだに決まっているよね。凄いね。好意全開の女の子と同居しておいて我慢できるとか。親と一緒だからっていうのもあるからだろうけどさ」


・・・確かに、我ながらとんでもない理性をしていると思う

欲がないわけではない。我慢できないときは少なからずある

そういう感情が芽生えると同時に、手を出してしまった後を考えるようにしている


「手を出した瞬間、お前は死因になるぞって言い聞かせている」

「将来的に影響が出そうな暗示だね。心配になってくるよ」

「むしろ廉は欲に忠実すぎないか」

「当たり前では?」


さも当然といわんばかりの回答が飛んでくるなんてどういうことなんだ


「・・・最近はそういうのが当たり前なのか?」

「あはは。付き合い方は人それぞれだから、悠真と羽依里ちゃんらしい付き合いをしたらいいと思うなぁ」

「んー・・・俺たちらしい」


ぶつくさ考えている間に、廉は羽依里の隣に立ち、そっと耳打ちをする


「いかがでしたか」

「今後の課題が見えた。これはヤバいと思う」

「だよね。あの方法で性欲抑えていたら、羽依里ちゃんが元気になったとき、思いっきり影響あるもんね」

「うん。そういう暗示をしないように誘導しないと・・・でも、なんでこんなこと」

「そういう話題を振れる特権さ。羽依里ちゃんは直接聞ける?」

「聞けないと思う」

「でしょ。僕は適当に、軽い気持ちで話を振れるからさ」


「でも、どうして廉君はここまで」

「理由は多く話せないけれど、僕は羽依里ちゃんに元気になってほしいし、二人には今後も上手くいって欲しいと思っている」

「ありがとう.頑張るね」

「うん・・・それに、綺麗な恋愛を見られる最初で最後のチャンスだと思っているから」

「・・・?」


ふと、後ろが静かになった気がする

目線をやると、廉はどこか遠い目をしていた

けれどそれは一瞬の出来事。すぐにいつもの調子に戻って、いつも通りに笑うのだ


「まあそういうことだから!今後も色々と頼ってくれていいからね!報酬は宿題のお手伝い!どうかな」

「うん。もしもの時は・・・あ、そうだ廉君。一つ頼みが」

「早速だね。なにかなにかな・・・ふむ。いいね。わかった。聞いておくよ。結果はメッセージで送って、ついでに冷泉君にも送っておくよ」

「ありがとう」

「いいって。報酬のこと、よろしくね!」


そろそろ華道部に到着する頃。話は一段落してくれる

その後、俺たちは今後の段取りを確認した後・・・最初の目的地である華道部への扉を叩いた

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春来る君と春待ちのお決まりを 鳥路 @samemc

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