僕が見えるんですね

冬野瞠

深夜に男は語る

 最近俺はよく真夜中に家の周りを散歩している。二時とか三時とか、そのくらいの時間帯だと人っ子一人いなくて、通学や通勤で賑わってた日中の道とは別の世界みたいに見える。

 深夜徘徊って意外と人気らしいけど、俺の家の周りじゃする人は自分以外ほぼいない。不審者が出るとか、幽霊に声をかけられるとか、そういう噂があるから。

 その日も俺は常のようにあてどもなく夜の住宅街を闊歩していた。そしたら危なげな足取りでリーマンぽいおじさんが前から歩いてきた。あんなに見事な千鳥足は初めて見たな。

 それで俺はその人に近づいて、足をとめて顔をじっと見つめた。

「なんですか?」ってめちゃめちゃ不審者を見る目をされたから、言ったわけ。


「僕が見えるんですね」


 って。そしたらそのおじさん、赤ら顔を部分的に青ざめさせた変なマーブル状の顔色になって、脚をもつれさせながら逃げていっちゃった。

 人が悪いとは思うけど、面白すぎて。大笑いしそうになるのをこらえるのが大変だったよ。そうそう、不審者とか幽霊って俺のことだから、実は。

 気が済んだからそこで切り上げて家に帰ろうとしたんだけど、また人影を見つけてさ。一夜のうちに複数の人に出会でくわすなんて珍しいなあなんて思いながら近寄っていって、驚いたね。どう上に見積もっても中学生くらいの男の子だったから。

 声をかける前に、その子に何て言われたと思う?


「僕が見えるんですね」


 そう言われたんだ。

 ゾッとしたよ。ああやってしまった、本物を引き当てちまった、って後悔した。やっぱりこんな悪戯いたずらはすべきじゃないって思い知ったね。その後の記憶が全然ないから、よっぽど怖かったんだと思う。

 ……え、それから? 今俺がこんな話をしてるんだから無事で、特に影響もなかったんだろ、って?

 まあ、それは別にどうでもいいじゃん。あんたが何を聞いたところで、んだし。



 ね?




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