私に霊感はありません
虎渓理紗
私に霊感はありません
今日はとんでもなく運が悪かった。
営業先が彼氏の家の近くで、サプライズをしようとしたまでは良かった。久しぶりの早上がり、るんるんとお酒を持って部屋に入る。
玄関にハイヒールがあった。
恐る恐る視線を上げると、ベッドでお楽しみ中の彼と見知らぬ女。私は叫び、そのまま部屋を飛び出した。居酒屋で酒を煽りに煽り、深夜二時。
眠らない街、東京といえど終電。
もういい、歩いて帰ろう。酒も抜け切らぬ中、千鳥足の散歩が始まったのである。
なので、後ろから声がしたので驚いた。
恐怖ではなく、驚き、だ。
「……うらーめーしーやぁ……」
「うおっ」
「驚きました⁉︎ 今の驚きポイントは星五つ中⁉︎」
「え。星三つかな」
なに? 街頭アンケート?
「えぇー、声を上げたんならもう少し! もう少しだけ評価を!」
幻聴?
まだお酒が抜けきっていないのか。
「あ、これ視えてないパターンだ。丑三つ時ですよ⁉︎ 幽霊全盛期! ちょっとお姉さん!」
「なに」
「あー、声は聞こえてるんですね」
「忙しいんだけど」
「街角アンケートを断る時のようなこと言わないで。私、真面目です。評価をもう少し、もう少しだけ上げて!」
姿は視えない。
「丑三つ時に幽霊が視えないなんて、本当に霊感が無いんですね!」
なぜ煽られた。
「忙しいんですが」
「分かります。終電、乗り過ごしたんですね。あるあるです。私も生前はよくやり……」
幽霊らしい。が、その姿は全く視えない。無駄に明るい口調も相まって私はイライラしてきた。
なんなんだ全く。
「あ、でも星五つは取れたはずですよ? 私、営業成績良いんです。髪も長いし、前に流せば貞子!」
「視えないって」
風圧は感じるが。
「こんなに視えない人初めてですよ」
「初めてって言われても視えないんですよ」
「……」
「今、変顔してません?」
「視えてるじゃないですか」
「いえ違います」
あぁ、本当に最悪だ。
「すごく馬鹿にされてる気がするので」
私に霊感はありません 虎渓理紗 @risakuro_9608
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