百夜参りの山歩き

真朱マロ

第1話 百夜参りの山歩き

 昔々。

 山里の小さな村に与助という若者がおりました。


 つい先だって父は亡くなり、6人いた兄姉も家を出て、今では老いた母との二人暮らし。

「末のおまえに苦労をかけるのはねぇ」と眉根を寄せる母にも、けろりと笑って「おいらはまだ子供だし」とのんびり構える始末。


 独り立ちの歳でなくとも齢は14。

 ポヤポヤしてたらあっという間に男やもめの出来上り。


 自分の足腰がしっかりしているうちに、末の子にもまともな縁付きを考える母でしたが、なにせ小さな村の事。

 歳の吊りあう娘がおりません。


「山の神様にお願いしたらどうかねぇ」


 御神木は山頂付近に祀られており、百夜参りを達すれば願いが叶うのです。

 隣人の言葉に乗った強引な母の勧めに押され、与助は深夜の散歩を興じる羽目になりました。

 初めは乗り気ではなかった与助ですが、夜の山は魅惑的でした。

 薄暗く生い茂る木々の梢はサヤサヤと歌うようで、ふわりと浮いては森を漂う光る虫は星空のようでした。


「なんとまぁ綺麗な神様の庭」


 雨の日も山に入ればカラリと晴れて、熊や猪に出くわすこともなく、山頂へと続く道もほのかに光って見えました。

 昼の山はたいそう歩きにくいのに、夜の散歩は美しく楽しいばかりです。


「今日が最後の夜だからね」


 与助は残念な心持ちでいつものように御神木に参り、今夜が最後なのが惜しくなってトボトボと歩いておりましたら、どこからかシクシクと泣き声が聞こえてきます。

 これはまた面妖な、と思いながら探してみると、木の根元に七つほどの女童が二人おりました。


「これ、どうした?」

「私、捨てられれちゃったの」


 聞けば「口減らしで山に置いていかれた」と泣くので、これも神様の導きだろうと、与助は二人を家へと連れ帰りました。

 四つほど山を越えた村の名前を言っていたので、家人が後悔して探しに来ることはもうないでしょう。

 このまま山に置いておけば、日を置かず二人とも亡くなるだけです。


 嫁ではなく童を連れ帰ったことに与助の母はあきれたけれど、結局は二人を家に置くことに決めました。

 痩せ細ってはいるものの、二人とも素直な性分に見えました。

 仕方ないと口では言いながらも、嫁に出た娘たちのお古もあるので着替えさせて世話を焼きます。

 不思議なことに、朝になると童は一人が消えてしまい、残った娘は笑いました。


「童ちゃんは大人には見えないの。私のたった一人のお友達」


 しばらくすると拾われた娘にも「童のお友達」の姿は見えなくなりました。

 でも、童ちゃんのためのおやつを供えておくといつの間にか消えるので、与助の家へ元気に居ついているのでしょう。

 童ちゃんの恩恵か、与助も家族も病気ひとつすることなく、手がける田畑も豊作で、良いことが続きました。


 山の神様のご利益かは定かではありませんが、百夜参りの願いも叶います。

 大人になった与助は、大人になった娘と祝言を上げて、末永く幸せに暮らすのでした。



【 おわり 】

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百夜参りの山歩き 真朱マロ @masyu-maro

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