深夜の散歩で得たいの知れない可愛いものを拾った
びゃくし
拾った
「……これ何?」
はじまりはコンビニの帰りだった。
ど田舎のコンビニなんて大概遠方にしかない。
歩いていくには遠すぎて、自動車で行くには億劫過ぎる。
かといって深夜不意に何処かに出掛けたくなっても、他に夜中まで営業している店なんかない。
今日の俺はとにかくどこかで気晴らししたい気分だった。
「ふー……帰るか」
思いの外長居してしまった。
車で来たせいか片手にぶら下げた
お菓子にアイス、明日の朝食用のパン、帰ったら時間に関わらず食ってやると一大決心をしたカップ焼きそば。
荷物を車に置いたあと、ふと夜風をもう少し浴びた買った俺は辺りをぶらりと歩くことにした。
散歩ともいえない月夜行。
その途中、変なものを見つけた。
「キュー、ピー、キュー、ピー」
「え、怖っ、長靴から鳴ってる?」
右足用の黒い長靴。
ゴツい作業用のしっかりしたものでなく、カジュアルさを全面に出したなんちゃって長靴から音が鳴っていた。
結論から言おう。
俺はそれを車に載せ持ち帰った。
「なんでだろ……鳴き声が可愛いかったから?」
キューピーと小動物のような声は一人暮らしの俺には何故か癒やしになった。
こいつ……名前は悩んだがピコとの奇妙な生活が始まる。
ピコには一緒に暮らすうえでルールがある。
まず食事は一部の物を除きなんでも食べる。
長靴の口? に食べ物を放り込んでやれば、中で喜んで食べるらしく小刻みに長靴が揺れる。
同様に水分も水をペットボトルで口から流し込んであげるとごくごくと喉を鳴らし飲み干す。
気になる移動は長靴ごとだ。
一足飛びに膝くらいの高さまで跳ねピョンピョンと移動する。
ピコが喜ぶのは長靴を揺することだ。
両手で持ち上げてユラユラと揺すってやるとキャピキャピと喜ぶ。
そして、一番肝心なのは……。
「あー、ダメダメ! ピコ、これは食べちゃだめなんだ!」
「ピピー!」
長靴でポテトチップスを袋を蹴り上げるピコを持ち上げて静止する。
……危なかった。
ピコには破ってはいけないルールがいくつかある。
その一つ、じゃがいもを食べさせてはいけない。
前にこれを破った時ピコは……可愛くなくなった。
一つならまだいい。
キュー、ピーという鳴き声が少し濁って聞こえるだけだ。
でも……複数だと……。
ピコは夜中に動き出す。
怖くて俺は見ていない。
でも……ルールを破った日に限ってベットにいる俺の腕を何かが這っている感覚がする。
「ピ」
目を開けられない。
腕をモゾモゾと動くものは昆虫ではなく、ふさふさとした毛の生えた生物。
「んっ!?」
チクリと腕に何かが刺さる。
でも俺は決して目を開けない。
ルール5 食事中の姿は見てはいけない
腕に僅かな重みを感じながら俺はいつの間にか夢の世界に旅立っていた。
翌日奇妙な感覚の残る腕に触れる。
「なんともない……よな」
最近会社の同僚から痩せ過ぎじゃないかと心配される。
そうか?
体重は5キロほどしか減っていない。
これはきっと深夜のお散歩のお陰だろう。
長靴に入ったピコを抱えて夜近所を練り歩くと嫌な気持ちも薄れる。
「ピコ、行ってくるな」
「キュー、ピー」
今日も俺はピコに挨拶して会社に出勤する。
またしても同僚から目のクマが酷いと狼狽された。
可笑しいものだ。
俺はこんなに元気でピコに毎日癒やされているのに。
深夜の散歩で得たいの知れない可愛いものを拾った びゃくし @Byakushi
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