深夜の散歩で起きた出来事
λμ
深夜の散歩で起きた出来事
初動報
三月八日午前三時〇七分
■■県■■■町■■■■付近にて、不審な人影を見たとの報あり。■■県警察より最寄りの交番へ確認を要すとの伝達あり。同日同刻、夜間警邏にあたっていた巡査二名が現場付近を捜索。不審者は確認されずとの報あり。
通報者への聞き取り
『いや、いたんですよ。■■■■のところに。なんか、たぶん女の人かな? ベージュのコートみたいなの着ててさ。両手をこう(左右に広げる仕草を見せ)、大きく広げて、踊ってるみたいな感じでね。このへんほら、■■■■の子らが、■■のとこの大きなガラスあるでしょ? あそこで夜にダンスの練習してるから。そういうのの帰りかなって思ったの。最初は。でも違うよなって思って。だってほら、ダンスの練習だったらジャージとかさ、動きやすい格好をしてるはずでしょ? でもコートなんだもん。酔っ払ってんのかなって思って。だったら危ないなって。でも関わりたくないでしょ? だから通報したんだけど。』
二報
三月八日午前三時十六分
不審者の捜索にあたっていた最寄り交番勤務の■■■■■■巡査が不審物を発見。詳細は不明であるが、人の皮のようなものであるとのこと。
三報
三月八日午前三時十七分
発見物の復唱確認を求めるも■■■■■■巡査の応答えられず。■■■■巡査に確認を取るも応答えられず。応援を要請。
■■広域検査室ログ
三月八日
午前二時〇四分:■■県■■■町に出現を感知
二時〇五分:■■■■に通達
二時十三分:■■■■■の可能性ありと確認
二時十九分:至急報を発報。
同 :衛星による■■■■■の追跡開始
二時二十分:■■■■■の信号をロスト
■■■■隊への注意伝達
『現時点で■■■■■の外観は不明。通例に倣い以後■■■■■はミスクと呼称すること。ミスクは発見からロスト直前までの進路から■■県■■■町を目指している模様。当該地域は住宅地であるため消音装置の使用を要する。ただし、原則として戦闘を禁ずる』
■■生徒指導担当教諭■■■■による聞き取りの録音(抜粋)
『だから、警察が来てるんだって。怒ってるんじゃなくて、心配してるんだよ。■■も一緒にいたんだろ? 知らないじゃすまないんだよ! ■■はまだ家に帰ってないんだぞ!? 心配じゃないのか! お前らは! 深夜にあんなとこ……ダンスの練習じゃねぇよ! 何やったのかって聞いてんだよ! (沈黙) なんか言えよ! (ノックの音) はい!? なんです!? (扉の音)』
七報
三月八日午前三時三十一分
現場への急行を求めたPC三台、乗車警官六名が無線応答せず。■■県警本部長命令により現場指揮権を■■■に移譲。
■■指揮所で行われた会話
『本部長命令って……■■■って聞いたことあります?」
『ない」
『……大丈夫なんですかね?』
『心配だけど、できることやるしかないよ』
『もう何もできないみたいですけど』
『できることはやったんだから、仕事に戻ろうってこと』
■■邸の動体検知型防犯カメラによる映像
録画が開始された。
画面上部に2023/03/08 02:38と表示されている。
画面中央に門扉が、奥の道路に人影らしき黒いものが映っている。ノイズ。門扉が開いた。人影は両手を広げてくるくると回っている。ノイズ。画面中央で、黒尽くめの人影が両手を横に広げて立っている。動く様子はない。録画停止。
画面上部に2023/03/08 02:40と表示されている。
開いていた玄関扉が閉まっていく。一瞬の暗転ののち、画面中央で、長い髪の女らしき人影が両手を横に広げている。肌色のコートを着ていた。女の姿が消え、同時に奥の道路上に現れた。女が両手を横に広げ、くるくると回りだした。門扉がゆっくりと閉まっていく。ノイズ。忽然と女の姿が消えた。
■■■■隊による■■邸の探索報
『――やっと繋がった。ってことは確保したのか? まだ? 移動しただけか。ああそう。脱ぎ捨ててあった皮膚の持ち主を見つけたよ。大丈夫――か? とりあえず全員生きてる。どうだろう。だがまずいことになったよ。一家全員、声をだせないみたいだ。声帯を取られたのかもしれないな。――ああ。学習したんだと思う。――いや、息はしてるよ。痛いみたいだ。暴れる力は残ってないな。――ああ、とりあえず一通り試着して娘の皮を着て出ていったみたいだ。救急車を呼んでくれるか? 強盗が入ったってことにしよう』
■■生徒指導担当教諭■■■■による聞き取りの録音(抜粋)
『――おま! ■■! 何だお前! 一晩中どこほっつき歩いてたんだ!? 親御さんがどんだけ心配してたと――あ!? 何!? 手!? 手がどうしたって? もっと大きな声で――横……? は? おい大丈夫か? さっきから何いってるんだ?』
十八報
三月八日午前三時四十七分
■■■より、同日三時十七分より連絡の途絶していた警官二名の制服を発見との報あり。また、PC三台ならびに同車の乗員六名の制服等も発見との報あり。車内に夥しい血痕を確認とのこと。
三月八日午前十二時二十分 昼のワイドショーにて
女性アナウンサーが画面に笑顔を向けて言った。
『では最後に、視聴者の皆さまからお寄せいただいた衝撃映像のコーナーです』
粒子の荒い映像の中心に、両手を横に広げ、その場でくるくると回っている人影が映っている。ナレーションが言った。
『これは今朝、まだ日が出る前に取られた映像』
「なにあれ? なにしてんの?」
投稿者と思しき人の半笑いの声が入った。
「回っとるやん。なんで? やば」
笑い声。
「……てか、あれ? どうなってん?」
カメラがズームし、人影に寄った。人影は両手を横に広げてくるくると回っているはずなのだが、顔が見えない。髪の毛のようにしか見えない何かで頭がすっぽりと覆われているのだ。カメラがゆっくりと人影の足元を映す。
「……は?」
投稿者の声が硬くなった。
人影は足を全く動していない。道路上を滑るようにして回転しているようだ。
カメラがゆっくり上に戻る。
「うぉ!?」
カメラが揺れた。人影は回転を止めていた。
「なに? なにあれ?」
ふっ、と人影が消え、カメラが揺れた。
「うぉぉ!? は!? 消えた!? え、なに!? なにぃ? もぅ、やめてや」
カメラが引いていく。あたりにはもう何も映っていない。
『おわかり頂けただろうか……』
ナレーションが冗談めかして言った。
■■■■■あらためミスクによる人的被害について
『三月八日午前三時三十八分時点:
重傷:民間人七名 警察官八名
軽傷:なし
死者:なし
*重傷には心的外傷を含む。』
■■広域検査室ログ
三月八日
午前三時五十四分:ミスクの出現を感知
同 :■■■■に通達
三時五十五分:ミスクの信号をロスト
同 :■■■■に出現を感知
三時五十六分:ミスクの信号をロスト
四時〇〇分 :日の出をもって追跡中止と通達
■■■■■についての抜粋
『……の行動には一定の秩序が見られる。活動時間は深夜二時から日の出の前までに限定されており、視覚による発見時は常に四肢と思しき部位を横に広げ、水平方向に回転運動を行っている。これは前回出現時に観測した、人の行動を模倣しているものと推察される。また、当該の回転運動は、自身を映す鏡やガラス等の前でも観測されている。このことから、■■■■■は剥ぎ取った皮膚等を衣服と認識し、観測者に誇示あるいは観測させるため回転運動を行っている可能性が指摘されている』
■■スポーツ社会面より抜粋
『夜の散歩にご用心!? 深夜の皮剥ぎ婦人があなたの街にも……!
ヤバい奴か幽霊か、はたまた宇宙人だったりするのか。ここ五年ほど散発的に報じていた例の事件がまた起きたとのウワサ。今度の犠牲者は一般人が七名、警官が八名なんだとか。こんな凶悪事件が起きているのにK察様は何をやっておるのか。けしからん。ここはオカルト担当たる私が、みなさまのミッドナイトライフをお助けすべく深夜の散歩の注意点を教えてしんぜよう……』
アイリッシュ・バー風見鶏のレシートの裏
『■■■■■がテレビに出てた。彼女に深夜の散歩は控えるように言っておいてくれ。3/8 ■.』
深夜の散歩で起きた出来事 λμ @ramdomyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます