書籍化マウントを取ってくる双子の兄殺害計画!

無月弟(無月蒼)

第1話

 俺の双子の兄は最低のクソ野郎だ。



 あのクソ兄貴、いつも俺の事を見下して虐げている。

 昔はそれなりに仲のいい兄弟だったと思う。二人とも小説が好きで共に執筆活動をしていたし、小説投稿サイトのカクヨムに登録した時なんかは、いつか二人でプロデビューできたらいいななんて言って、笑いあってた。


 しかし、兄貴の作品が書籍化したことで、俺に対する態度はガラリと変わった。

 事ある毎に、書籍化マウントを取るようになったのだ。


 あの野郎、普段カクヨムでは猫をかぶって、「読者の皆さん、いつも読んでくださってありがとうございます」なんて言っているけど、本当はそんな品行方正な奴じゃねえ。


 例えば、俺が公募に出した小説が落選した時。


「へいへい愚弟よ、また受賞できなかったのかい? 君がいつまでもそんなんじゃ、この書籍化経験のあるお兄様の名に傷がついて困るよ。書・籍・化・経・験・の・あ・る、お兄様がな!」


 例えば、大寒波が来た大雪の夜の事。


「書籍化してない弟よ。書籍化したお兄様は肉まんが食べたくて仕方がない、買ってこい。何? 自分で行けだと? 書籍化してない愚弟が、立派なお兄様に逆らうなー!」


 こんな感じ吹雪の中、俺に肉まんを買いに行かせたりもした。


 カクヨムユーザーのみんな、騙されちゃいけない。本当の兄貴は、こんな最低のクソ野郎なんだ!


 兄貴の書籍化マウントは止まるところを知らない。

 そして先日、俺を怒らせるある出来事が起きた。


 2023年3月。俺も兄貴も、カクヨム7周年を記念したイベント、KACに参加していたのだけど。


「わっはっは! お兄様のKAC作品にまた星が入ったぞ。それに比べて愚弟の作品は……あれまあ、それっぽっちしか星を貰っていないのかい? なんて可哀想な弟だ。書籍化もできない上に星まで少ないとは。お兄様の爪の垢でも煎じて飲ませてあげようか? わっはっはっはっはー!」


 ……この瞬間、俺の中で何かがブチ切れた。


 よし決めた。このクソ兄貴殺す。

 勢いで言っているんじゃない。本当に、確実に、必ずぶっ殺してやるー!


 というわけで、俺は最低最悪のクソ兄貴殺害計画を企てる事にした。


 兄貴の行動パターンを見て、いつどんな殺し方をするのが一番いいかを考える。

 いくらよく似た双子と言っても、全てを把握しているわけじゃないからな。兄貴が無防備になるのはいつか。どうやったら確実に殺せるかを、考えていく。

 同時に、俺が殺したとバレないためのトリックも考えていく。


 おっと。計画がバレないための対策もバッチリだ。

 計画を立てるために必要なデータ、どうやって殺すか等の計画メモは、兄貴に見つからないよう俺しか見られない場所に保管してある。これで露見する心配はない。


 そうして俺は、あらゆる推理小説を読みあさり、完全犯罪を実現させるため計画を練っていった。


 だが、そんな俺に対してクソ兄貴は。


「へいへい愚弟。最近推理小説を読んでるみたいだが、今度はミステリーでも書くのか? 優秀なお兄様と違って、頭がパーなお前が? マジウケるんですけどー(笑)」


 この野郎! いい気になっていられるのも今のうちだ!


 兄貴の行動を分析して、計画に必要な道具を揃え、うっかりミスをしないよう手順をメモし、それを何度も読み返してはイメージトレーニングを重ねていく。


 そしてついに準備は全て整って、後は殺すだけ。

 そうだ殺した後は、兄貴のカクヨムアカウントも消去してやろう。

 クソ兄貴、お前の作品も全て、あの世に送ってくれるわー!

 ……と、思っていたのだが。


 この殺害計画、思わぬ形で終わりを迎える事になる。

 いよいよ明日計画を実行しようとしていたその日、家に警察が来て、俺を殺人未遂容疑で逮捕したのである。


 何故? どうして計画がバレた?


 最初は兄貴が感づいたのかと思ったけど、逮捕される俺を見て驚いていたから違う。じゃあ何故!?


 その答は、殺害計画メモの保管場所にあった。

 実は俺、兄貴に見つからないよう、殺害計画をカクヨムの未公開作品の下書きとして保存していたのである。

 作品タイトルは、『書籍化マウントを取ってくる双子の兄殺害計画!』。


 ここなら絶対に見つからないだろうし、良いアイディアだと思ったのだが。

 実はこの未公開の下書き、他のユーザーは見ることはできないけど、カクヨム運営は見ることができるらしいのだ。

 で、経緯は分からないけど、たまたまその殺害計画を見たカクヨム運営が、これはヤバいと思っ警察に通報したそうだ。

 運営めー、余計なことをー!




 というわけで、俺は今刑務所の中にいる。

 ちくしょう! 本当なら今頃兄貴を殺し、更に未公開の話をパクって、カクヨムで公開しているはずだったのに!


 そして俺には、もう一つムカつく事があった。

 それは兄貴の野郎、なんでもカクヨムで『双子の弟に殺害計画を立てられていた話』ってエッセイを公開して、星を荒稼ぎしているんだとか。


 得られた星の数は、なんと777! 過去最高の星を獲得して、ラッキー7だなんて近況ノートで言ってるらしい。


 あの野郎、一人で良い思いしやがって! 誰のおかげでこんな面白いネタを手に入れられたと思ってんだ!

 何がラッキー7だ。俺にとっては、アンラッキー7じゃねーか!


 よし決めた。刑務所を出たら、今度こそ兄貴を殺そう!

 今度は殺害計画をカクヨムに保存するなんてミスはしない。な○うにでも保存するか。


 こうして俺は刑務所の中で、再び殺害計画を立てはじめた。

 見てろ兄貴! 必ず殺してやるからな!




 ※この物語はフィクションです。

 もう一度言います。この物語はフィクション。筆者やその双子の兄とは、何の関係もありません。


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