第4話 ハッピーエンド(^_^)v

「はぁー、疲れた。ガラスペンちゃんもインクちゃんもこちらの世界でも具現化出来るようになったんだね」


 私は一緒に転移した、ガラスペンちゃんとインクちゃんに話しかけた。


『うん、女神様のお力は凄いからね。違う世界でも通用するんだ!』

『……女神様……凄い……』

「しかし、なにか忘れている気がするんだよね。なんだったかな?」


 私は首を傾げる。


『忘れるぐらいだから、たいしたことじゃないと思うよ』

『……そうそう……』


 私は有隣堂書店に戻ってきていた。

 今の時間はあの異世界転移した時間からわずか三分ほどしか経っていない。あちらの世界で過ごした時間は一ヶ月以上あったはずだったが、不思議なものだ。


 私は、再び日常生活に戻れた喜びにクスリと笑うと、異世界転移は、ちょっとした、小さな旅をしてきたようなお得なものだと感じた。


 豪華な馬車での旅も、各地で味わったご馳走もいい思い出だ。今となっては、緊張した王様との謁見もいい経験だった。


『しっかし、ヒロコも報奨を遠慮しなければ良かったのに、あの優しそうな王様だったら、王様のお嫁さんなりたいってわがまま言ったら結婚出来たかもしれないのに、しかも、あのイケメン王様独身だった~』

『……ヒロコ、残念……』


 ガラスペンちゃんとインクちゃんは心の底から、あのイケメン王様と私が結婚しなかったことを勿体ないと思っているようだ。


「いいのよ、私はただの書店員だもの、普通が一番よ」


 私は、ニッコリと二人に笑いかけた。


『そっか、ヒロコがそれでいいなら、僕はなにも言わないよ』

『……ヒロコ、大好き……』


 二人は笑顔を浮かべている私の様子を見て満足そうだった。


「ふふっ、さて、豪華なダイヤモンドのアクセサリーは外して、仕事に戻りましょうか、今日も頑張っちゃうぞ」


 私はガッツポーズをする。


『ヒロコ頑張れー』

『……頑張れ、ヒロコ……』


 二人は私を応援してくれる。


 私は一人じゃない、ガラスペンちゃんとインクちゃんの二人もいるし、これから本を買いにくる大切なお客さんもいる。


 私はこれからも皆さんの為に利他の心を持ちながら、頑張って生きてゆこうと思う。


 弘子はそうした願いを抱くがゆえに、皆から愛され残りの人生を幸せに暮らすことになった。


 一方、異世界における三ヶ月後。


 カクヨーム王国では、いまだに毎日ドンチャン騒ぎがブッコローによって起こされ、聖女として一切働かないブッコローに対して、皆は、憎しみをいだきはじめていた。


「ブッコローは、猛禽類だから、狙った獲物はのがさないぞぉ、なんちゃって!」

「アハハ、ウケるー」

「ブッコロー様って、とっても面白いのねー」

「ブッコロー様、カッコいいー」


 バタン。


 聖女の居室の扉が開かれた。


「あ、アリスちん、ヤッホー、元気ぃー?」


 女性たちをはべらせた能天気なブッコローの声が部屋の中に響く、しかし、その入り口には、けわしい表情をした第一王女のアリスがいた。


「ブッコロー様、あなた様が聖女として働かれることをお待ちしておりましたが、いつまで経っても遊んでばかり、いい加減お待ちすることにも疲れました」


 沈痛な面持ちでアリスがそう言う。


「まー、まー、アリスちん、元気だしてよ。ほらブッコロースマイル♪」


 ブッコローは、いやらしいミミズクの笑顔をアリスに見せ、自分をアピールした。


 アリスはそれを見て首を横に振った。

 

「隣のユーリン帝国から、聖女ヒロコについてのお話があり、聖女ヒロコが生み出したガラスペンとインク、そしてペーパーが渡されました」


 淡々とアリスが事実を告げる。


「ふーん?」

「私たちにもうあなたは必要ない! そして、ブッコロー様、あなた様は聖女ですらない、あなたはただのトリです!」


 アリスが断言した。


「ちょっとぉー、それって失礼じゃない?! 聖女ブッコローに対して……」

「黙れ!! 誰か、この偽聖女のブッコローを魔の森に捨ててきなさい!!」

「ちょ、魔の森って、そんなブッソーなところにブッコローを捨てるですって?! アリスちん、やめてよ! これから、ブッコローの本気出すから!!」


 あたふたとするブッコローを冷静なまなざしでアリスが見やる。


「皆のもの、この偽聖女はただのトリにも劣る。さっさと捨ててきなさい!!!」


 アリスの怒りは、天元突破し、ブッコローをトリ以下であると断定した。


「「「ハッ」」」


 ブッコローは捕まった。


「イィヤァァァァッ!! ちょっと離しなさいよ、ブッコローはここでおもしろおかしく暮らすんだからっ!!!」


 ブッコローがどんなに騒ぎ泣き叫んでも騎士たちの拘束からのがれることは出来なかった。


 ……ブッコローは魔の森に捨てられた。


 働かざる者、喰うべからず。ブッコローが得た結果は当然であり、それらは、身から出た錆びでもあった。


 その後ブッコローの姿を見た者はいないが、カクヨーム王国では、働かない者たちのあだ名をブッコローと名付け、労働をしない愚か者をたいそう嫌ったという時代があったそうだ。


                    Fin

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異世界転移したら、私が聖女でした。~岡崎弘子の小さな旅~ 沼田 章子 @numata

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