第3話 城の中では……

 一方、その頃。


「ブッコロー様、そろそろ知識の伝達についての何らかの恩寵をいただけないでしょうか?」


 聖女付きの侍女がブッコローに話しかける。


「ブッコローはアイドルなんだから、ただそこにいるだけで恩寵があるの! せっかく楽しんでいるのだから邪魔しないでちょうだい!」


 ブッコローはそう言うと、ソファーに座る自分の両隣にいた女性たちを抱き締めた。


 ブッコローは聖女用の豪華な居室で周りを女性たちに囲まれ、この世の春とばかりに人生を謳歌していた。

 テーブルの上には高価な果実酒と、最高級品のフルーツが山盛りになっている。


「ブッコロー様、そうは申されましても、毎日合コンばかり、わたくしどもといたしましても、困っているのですが?」

「あんたたちのことなんか知らないわよ。この世界はブッコローの為にあるの! ブッコローがヒロインなんだから余計なことを言わずに美女や美少女をもっとよこしなさい!」

「……はい、わかりました」


 聖女付きの侍女が部屋から出ると、大臣たちが待っていたが、侍女がその人々に首を振ると大臣たちから失望のため息が漏れた。


「困ったものだ、あの聖女は本当に女神様が寄越された聖女なのだろうか?」

「あれは、ただのいやしいミミズクではないか?」

「それにしても毎日贅沢三昧、国庫に余分な金など無いのに……」


 カクヨーム王国ではまったく情報の伝達の発展が出来ていないので、国はいまだ貧しいままであり、誰もがブッコローに落胆していた。


 一ヶ月後。


「では、皆さんユーリン帝国の王に会ってきます」


 私は、村の皆さんへ別れの挨拶をする。


 私の村での評判が大きな街に届き、そこから王都にいる王様の耳へと噂が届き、私は、王様から豪華な二頭立ての馬車が寄越されるほどの立場となっていた。


「ガラスペンちゃん、インクちゃん、私王様に会っても大丈夫かしら?」


 私は自分自身が聖女と呼ばれることへの不安から二人に声をかけた。


『大丈夫だよ、ヒロコはよく頑張っているよ!』

『……ヒロコは凄い……』


 私は二人を信じ、王との謁見をすることを決意し、馬車に乗り込んだ。


 豪華な馬車での旅は快適で、旅の途中に寄る村や街ではどこでも歓迎され、豪華な食事のもてなしなどを受けた。


 そうして、楽しく旅をしていると、十日後に王都に到着し、いよいよ王との謁見となった。


「顔をあげなさい」


 王のおごそかな声が響くと、私は顔をあげた。


 王様はまだ若くイケメンだった。


「そなたは、珍しい筆記用具を出せると聞く、私の前でそれを見せてはくれぬか?」

「はい、かしこまりました。クリエイトガラスペン! クリエイトインク! クリエイトペーパー!」


「「「「「おおっ!!」」」」」


「これは凄い!」

「なんと美しい!」

「見たこともない筆記用具だ!」


「……静まれ、王の御前である」


「フム、どうやら噂は本当であったようだな。こちらのガラスペンとやらは、書きごこちは羽ペンよりも良く、インクは黒々とし、いつまでも書いた物が色褪せないと聞いた。それはまことか?」

「はい、ガラスペンは書きごこち良く、インクはあまり色褪せしません」

「フゥム、これ宰相、これを錬金術で作ることは可能か?」

「専門家に見せなくてはなりませんが、おそらく可能かと……しかし、これ程の美しさには出来ないかもしれません」

「あい、わかった。これの特許を認め、商業ギルドにての登録を許可し、販売を行う。そなたも正式に聖女として私が認定するが、今、出したこれら一つだけでなく、いくつかのガラスペンとインク、そしてペーパーとやらを出して欲しい」

「わかりました。クリエイトガラスペン! クリエイトインク! クリエイトペーパー!」


 ドサドサッ。


 私は大量にガラスペンとインク、ペーパーを出した。

 

「ウム、では特許とは別になにかそなたの欲しい物は無いか? 他に欲しい物があればそなたに褒美として、取らせよう。勿論、したいことでも構わぬ」

「……」

「言えないことか?」

「……いえ、私は別の世界からこの世界につれてこられました。なので出来ましたら褒美として、元の世界に戻りたいです」


 私は寂しげに微笑み、そして、答えた。


「なに? 元の世界?」

「はい、私はごく平凡な一般人です。王様に聖女などと認めていただいた上に、この世界に根を下ろすには実力不足ですし、元の世界には家族もいます」

「なるほど」

「なにとぞ、王様には、私の元の世界への帰還が出来るよう、助けていただきたいのです」

「フム、あいわかった。そなたの想いをしかと受けとめよう。宮廷魔術師たちをこれへ」


 王様が遠くにいた杖を持った人々を呼び寄せた。


「いいのですか?! 陛下、あの力があればいくらでもこの国の発展が!!」


 偉そうな雰囲気の重鎮らしき人が声をはさむ。


「いいのだ、あとは我々が努力すべきこと、聖女だからといって依存してはならぬ。ましてや異世界より女神様の意向とはいえ、無理やりつれてこられた者だ。帰してやらねば……」

「わかりました。では特許に対しての金銭の意味がなくなります。せめて、聖女様には次の式典で使う予定だったアクセサリーをあちらの世界にお持ちいただきましょう」


 偉い人の後ろにいた女官が、私に豪華なアクセサリーをつける。


「ウム」


 宮廷魔術師たちが杖をかかげ、なにやら唱えはじめた。


「─……─……─」


 私はダイヤモンドの指輪とネックレス、イヤリングを着け、宮廷魔術師たちの意味のわからない言葉を聞きながら光に包まれると、元の世界へと戻っていった。


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