第2話 辺境の村

「はぁ、つらすぎる」


 私はそのまま王国の王都から離れた、隣のユーリン帝国の辺境の森に捨てられた。


「私は、これからどうなるのかしら……ブッコローさんが意地悪でなければ、今頃私もお城で暮らせていたかもしれないのに」


 ブッコローさんは、あのあと、お城で聖女のお披露目でもある舞踏会に招待されるとのことだった。


「ああ、異世界のご馳走食べたかったな、私にも聖女として、知識の伝達の力があれば……」


 おや? キラキラと周囲がダイヤモンドダストのように光っている。


『……ヒロコ……ヒロコ……』


「なに? 私を呼ぶのは誰?」


『ヒロコ、僕はガラスペンの精霊、名前はガラスペンさ。そして隣にいるのは、インクの精霊、インクちゃんだ』


 私の目の前に小さな妖精のような生き物が二人いる。


 一人は、緑色をした髪の薄いトンボのような羽を生やした男の子で、もう一人は、ピンク色をした髪の蝶のような羽を生やした女の子だ。


「ガラスペンちゃんと、インクちゃん?」

『そうだよ。僕たちは書店にいたころからヒロコを見守っていたんだよ』

「何故見守ってくれていたの?」

『ヒロコがガラスペンやインクである僕たちを愛してくれたからさ。ヒロコのそばにいると僕たちはとっても気持ちがいいんだ。そしてたった今、ヒロコが知識の伝達の力があるようにと願ってくれたから、女神様のお力で僕たちが具現化出来るようになったんだ。ありがとうヒロコ!』

『……ありがと……』

「そうなんだ……でも私はもう追放されたし、なにも出来ないよ……」

『あきらめないでヒロコ! ヒロコにはとっても凄い力があるんだ!』

「私に力が?」

『ヒロコ、クリエイトガラスペンって唱えて!』

『……クリエイトインクも……』


「クリエイトガラスペン! クリエイトインク!」


 私の手の中にガラスペンとインクがあらわれた。


『ヒロコ、その力でこの世界の知識の伝達の一端をになうんだ。ヒロコならきっと出来る。ヒロコこそが聖女なんだ』

『……出来る……ヒロコが聖女……』

「……わかった、やってみるよ! ありがとうガラスペンちゃん、インクちゃん。ところで、私は、これからどうすればいい?」

『ここから歩いて一時間ほどの所に村がある。だけど辺境だから、そこにいる村人たちは、口コミでしかほとんどの情報の伝達が出来ていなくて困っているんだ。それにこの世界では羽ペンしかなくて、インクもなく、炭を粉々にした物を水にいて利用しているだけなんだ。だから、薄くて何を書いているかわからなくなって皆が混乱している』

「そう、それはお困りでしょうね」

『そう! そこで、ヒロコの出番だよ。ヒロコの力で皆を助けてあげて!』

『……頑張れ……』

「わかった。私が頑張るよ!」


 私はそれから一時間ほど歩き続け、辺境の村へと到着した。


 すると、そこには力なくたたずむ村人たちの姿があった。


「どうかしたのですか?」

「知識がなくて畑が上手くいかないんだ」

「裁縫も流行りのデザインがわからなくて、いつも同じ服しか作れないし」

「お料理だって、いつもと同じレパートリーばかり」

「俺たちはどうしたらいいんだ」


「これを使ってみてください」


 私は手に持っていたガラスペンとインクを村人に渡した。


「これは?」

「ガラスペンとインクです。これらがみなさんの生活を豊かにしてくれます」

「綺麗だなぁ」

「キラキラしている」


「しかし、どうやって使うのだ?」


「何か紙とかありませんか?」


「紙?」


『ヒロコ、ヒロコ、女神様からおまけだって、クリエイトペーパーって言ってみて』


「クリエイトペーパー!」


 私の手の上に何枚もの紙があらわれた。


「「「「おおっ!!」」」」


「これにインクをつけたガラスペンで文字が書けます」

「ほぅ」


 さっそく、近くの家に皆で入ってテーブルの上で紙に色々なものを書いてみた。


「凄い、読みやすいよ!」

「それに色もはっきりしている」

「羽ペンとは全然違うな!」

「断然こっちのペンがいい」


 聞けば店の看板など、木の板を彫刻した文字は普通にあるとのこと、皆文字は読めるらしく、また、金の無い者たちでも土に指や木の枝で文字を書いて練習するので、識字率が高く、読み書きやそういったものには困らないようだ。


「これらを使って、様々なところから情報を得ていろいろ学んできてください。そして、皆さんで幸せになってください」


 私は皆さんに微笑みかけた。


「「「「革命的だ!」」」」


 私は村の人々にガラスペンとインク、そして紙を大量にくばり、村の人々から感謝されるようになっていった。


 そして、私は辺境の聖女と呼ばれるようになった。

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