異世界転移したら、私が聖女でした。~岡崎弘子の小さな旅~

沼田 章子

第1話 シンデレラ弘子

 私は岡崎弘子、ガラスペンを愛するごく平凡でしがない書店員だ。


 私の働いている有隣堂書店の会社の先輩には、ミミズクのR.B.ブッコローさんがいる。


 私は、今日も一生懸命仕事をする。


「ブッコローさん、今日は特に新刊が多いです。本を並べたり、一緒にPOPを作ったりしてはくれませんか?」

「ああん? ザキさん! ブッコローはユーチューブ界のアイドルなんだよ、そんなチンケな仕事してられないわよ!」

「そんな……」

「だいたいブッコローは超人気者なの、私にはもっと華やかで目立つお仕事させなさいよ! そうでなければ、ブッコローは森に帰るわよ!」

「……」


 会社はマスコットキャラクターであるブッコローさんに人気があるので、ブッコローさんにやりたい放題をさせている。

 ブッコローさんは、書店員の仕事をミミズクだからと言い訳をして、ほとんどまともにしていない。

 そのしわ寄せは当然後輩の私にくる。

 そして、ここだけの話だが、私はもう半年もまともに休みを取っていない。

 ブッコローさんがいつも合コンで二日酔いだと無断欠勤をするので、私はその尻拭いとして、そのつど急遽きゅうきょ休日にもかかわらず、呼び出しを受け、ブッコローさんのいなくなった仕事の穴埋めをするのだ……私は、連日のブラック勤務で、倒れそうだった。


 パアアアアッ。


 突如書店が光に包まれた。


 まぶしい!!


 私は目をつぶった。


「ここはどこ?」


 お城のような荘厳な建物。


 私がさっきまでいたのは有隣堂書店だったが? ここは一体……。


「ちょっとなによ?! 突然光って! 私に目潰ししたわね。ミミズクは夜目がきくから暗いのはいいけれど、まぶしいのは嫌いなのよ! 世界のアイドルブッコローにケンカ売ってるの?! ……って、ここはどこなの!!」


 私はブッコローさんもいたんだ、と少しホッととした。


 こんなわけのわからないところで一人は怖い。


 周りを見回すとここには、ブッコローさんと私以外の書店員はいないようだった。

 

「あの、話してもよろしいでしょうか?」

 

 正面に立つ華やかなドレスを着た可憐な美少女が話しかけてきた。


 彼女を挟むようにして、鎧をつけた騎士たちが立ち、少し離れて豪華な先端に水晶の玉のついた杖を持った偉そうなおじいさんがいる。


「はい」


 私はおとなしく話を聞くことにした。


「ここは、カクヨーム王国で、私は第一王女のアリスです。長年知識が上手く伝達せずに、国としても民としても困窮しておりました。今回女神様のお力添えで、聖女召還をすることになりました。もちろん、女神様からは、国が発展するための礎をもたらす、何かを聖女様には与えられているはずです。聖女様のお力を貸してはいただけないでしょうか?」

「? 私は普通の書店員なので、本に関する知識はありますが、国を発展させるほどの知識の伝達には心当たりがありません」

「ちょっと待って! 知識と言えばブッコロー、ブッコローが聖女だよね!」

「え? ブッコローさんは人間でなくて、ミミズクだし、しかもオスですよね?!」


 私は、私の抱いた疑問をブッコローさんにぶつけた。


「ブッコローのR.Bはリアルブック! ブッコローは知の巨人なの! そして、ブッコローは宇宙的なアイドルだから、ファンは老若男女よ! 私がオスだからといってヒロインじゃない理由にはならないわよ!」

「いや……だから、聖女って……」

「ザキさん、細かいことをぐちゃぐちゃ言わないで! ブッコローが聖女なの! ブッコローの力でこの国を救ってあげるのよ! どう? 異世界転移した聖女なんて流行りの小説みたいじゃない、アイドルの私にピッタリ!!」

「……ハァ」


 ブッコローさんはわがままだ。

 こんなブッコローさんが聖女だなんてことがあるのだろうか?


「じゃあ、そういうことで、ザキさんはさよならね」

「えっ?」

「だって、ブッコローがヒロインなんだから、ライバル役のザキさんには退場してもらわなければならないじゃない」

「そ、そんな……ライバルだなんて、私は単なる後輩で……」

「いいからつべこべ言わずに、アリスちゃん、ザキさんのことよろしくね」

「わかりました……申し訳ございませんが、貴女にはこの国を出ていってもらいます」

「ええっ?!」

「国としても心苦しいですが、聖女様もそうおっしゃっておりますので……」

「ザキさん、退場~、さようなら、お疲れ様でした。あとはブッコローに任せて、どこへなりとも行っておしまい」


 私はこうして、カクヨーム王国から追放された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る