KAC20233 「ぐちゃぐちゃ」

小烏 つむぎ

KAC20233 「ぐちゃぐちゃ」

 「きゃー♪」


 子ども達が声をあげて楽しそうに水の張られた田んぼに入っていくのを見て、実夢みゆも恐る恐るその泥水のなかに足を踏み入れた。


 『ぎゃー!』


 そして次の瞬間、大声を上げた。ただし、胸のうちで。やけに生暖かく柔らかい泥が裸足の指の間をにゅるりと撫でで行く。


 『気持ちわりぃーーー!』


 実夢みゆは教育実習生だ。その実習中の体験学習でとある田んぼに来ていた。

三年生を引率しているのはもちろん小学校の学校の先生たちだが、実夢みゆたちにも子どもたちの監視、もとい。先生方の補佐としての役割があった。


 「ぐちゃぐちゃ」の泥に足を取られ腰が引けたまま次の一歩を踏み出せない実夢みゆの隣を、身軽な子どもたちが泥をはね上げて走り抜けていく。水音のたび実夢みゆの薄桃色のトレーナーに不規則な茶色の水玉模様が生まれる。


 『いやっぁぁぁ!!』 

 

 実夢は今回も、叫びをかろうじて飲み込んだ。


 「レンコンってさ、ここで育つんだぜ!」

クラスでも体の大きい岸本君がさも自慢そうに言った。


 『いや、違うし。

アレは、レンコンっていう違うヤツだし。』


 実夢みゆは冷静に心のうちで訂正した。今回ずっと気になっていた素敵な教育実習生(他大学のイケメン)と一緒なのだ。ここで声を荒げるわけにはいかない。


 「みゆみゆ。見てよ!

コレ、タニシ。」

(「みゆみゆ」とは、子ども達がつけた実夢みゆの愛称である

ちなみにイケメンの愛称は、「かっしー」。克志という名前からついたようだ)


 タニシなんかに興味は微塵もないが、立場上そういう訳にもいかない。実夢みゆは、「ぐちゃぐちゃ」の泥にどんどん埋もれていく(ような気がする)足を引き抜くことを諦めて、不自然に腰をひねったままその子の方に向いた。


 「どれどれ?」


 子ども向けの高い声で微笑みかけたその時。不幸というものは、得てしてこういうタイミングで訪れる。こともあろうにぬかるんだ田んぼで鬼ごっこなどという不埒な遊びをしている子どもが、不安定な実夢みゆに……ぶつかりはしなかったが(さすがな子どものバランス感覚よ)、実夢は(子どもではなかったので)その拍子にバランスを崩した。


 大きな水音とともに、お約束のように尻餅をつく実夢。


 『マジでぇ??』


 またしても実夢の叫びは、ギリギリで胸のうちにとどまった。この自制心は評価されるに足るものと思いたい。


 高校時代のジャージのズボン(と下着)が一瞬で泥に染まる。四方でも同様に悲鳴とともに子どもたちと数名の先生が、田んぼにひれ伏していた。


 「みんな、「ぐちゃぐちゃ」だね。」


 ズボンを捲り上げまだ泥の洗礼を受けていないイケメン爽やかかっしーが、実夢に手を差しのべた。


 「柏原さん、ありがとう。」 


 実夢の頬がぽっと色づいた。

 

★ここで問題!

実夢が取るべき道は、さぁどっちだ?


① かっしーの手に助けられ、優雅に立ちあがる。


② かっしーの手をとり、にっこり笑って強く引く。


 あなたの選択で、かっしーとみゆみゆの運命が変わります。

なお続きは、各自脳内でよろしく!



 


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