大文字伝子が行く112

大文字伝子が行く112

　＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

　大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

　斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。

　一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」と呼ばれている。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。

　愛宕（白藤）みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

　草薙あきら・・・警察庁情報課からのEITO出向。民間登用。ホワイトハッカー。

　増田はるか三等海尉・・・海自からのEITO出向。

　工藤由香警部補・・・警視庁白バイ隊からのEITO出向。

　愛川静音（しずね）・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。剣道が得意。EITO準隊員。

　南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。元高校の国語教師。今は妻の文子と塾経営。

　南原文子・・・南原の妻。

　南原蘭・・・伝子の後輩、南原龍之介の妹。

　服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

　服部コウ・・・服部の妻。

　依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。

　依田慶子・・・依田の妻。やすらぎほのかホテル東京副支配人。

　福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。宅建の資格で建築事務所に勤めることになったが、演劇活動も行う。

　福本祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。結婚して、福本の妻になった。

　久保田警部補・・・あつこの夫。

　久保田管理官・・・EITO前指揮官。あつこと結婚した久保田警部補の叔父。

　本郷弥生二等陸佐・・・陸自からの出向。

　馬場力（ちから）三等空佐・・・空自からの出向。

　物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。蘇我と結婚した逢坂栞も翻訳部同学年だった。

　物部栞・・・物部の妻。童話作家。最近は、夫の喫茶店を手伝うことが多い。

　筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。警視庁からの出向。

　藤井康子・・・伝子マンションの隣に住む。モールで料理教室を経営している。

　井関権蔵・・・警視庁鑑識課課長。久保田警部補の先輩。

　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

　午前１０時。伝子のマンション。

　朝っぱらから、服部コウの快気祝いが行われていた。

　「遠慮無く食べてよ。今日は、当ホテルの協賛だからね。シェフもコックも藤井さんの所で待機しているからね。では、副部長。乾杯の音頭をお願いします。」

　「やっぱり、MCは依田だな。コウさん、回復おめでとうございます。乾杯！！」

皆、手にしたグラスを持って乾杯した。今日は飲める人間がいないので、全員ノンアルコールだ。

　チャイムが鳴った。高遠が出ると、筒井が立っていた。

　「筒井さん、今日はあまりアルコール無いんですけど。」と、高遠が遠慮がちに言うと、「いいよ、コーヒーで。ついでに寄ったんだし、すぐ帰るから。大文字。これ、届け物。工場から直接持って来た。」

　筒井は、何か棒状のモノを持っている。高遠から順に廻して、伝子は受け取った。

　「これかあ、総子はもう使っているという、新しいバトルスティック。」

伝子は、立って、皆にお披露目をした。ちょっと振ってから、中央部のボタンを押してみる。すると、シャキーンという音がした。そして、片方の先端が伸びた。

　「Rを押すと右側が伸びる、Lを押すと左側が伸びる。Bを押すと両方飛び出す。戻すときは捻りながら押し込む。手品みたいだろ？」と、筒井が説明した。

　「凄いですね、誰が？高遠が考えたの？」と福本が尋ねると、筒井が自分の鼻を指した。

　「以前から、スティックを身長に合わせられないか？って、エマージェンシーガールズから意見があったんだ。これだと汎用性が高い。身長に合わせるだけじゃなく、闘う内に、変化させることで、敵の隙を突ける。これのアイディアは俺だ。」

筒井の説明に、「流石、筒井だ。今回だけは脱帽だ。」と物部が言った。

　「今回だけ？」「ああ、めんどうくさい。今回も！」物部は言い直した。

　「ありがとう、筒井。恩に着るよ。」と伝子は素直に礼を言った。

　「これ、標準装備にするんですか？」と南原が言った。

　「ああ。総子ちゃんが実証してくれたからな。これが2本目。後は順次交換する。　それから、説明書を2枚渡しておくよ。1枚は、吹き矢ボウガンのEITO版。もう1枚は、木刀フルーレ。青山の武器だな。」筒井は高遠に書類を渡した。

筒井の説明に、「EITOの武器って、普通は誰が考案して管理しているんです？聞いちゃいけなかったかな？」と、依田が疑問を口にした。

「大蔵さんだよ、ヨーダ。」と、伝子が応えた。

　「秘密基地にいる偉いさんだよね。でも、量産はできないよね。」と、高遠は伝子に尋ねた。

　「無論。工場は別の所にある。」と、伝子は言った。

「それは、君たちでも秘密。悪いな。じゃ、俺、帰るわ。高遠、コーヒー、ご馳走さん。」

　筒井は言い捨てると、さっさと帰って行った。

　コウが立って、こう言った。

　「お返しに、歌を歌います。一番しか歌詞知らないけど。」

　コウが歌った。

　赤い火をふくあの山へ登ろう

　そこは地獄のかまの中 のぞこう

　登山電車ができたのでだれでも登れる

　流れる煙は招くよ みんなを みんなを

　行こう行こう 火の山へ

　行こう行こう 火の山へ

　フニクリ フニクラ　フニクリ フニクラ

　だれも乗るフニクリ フニクラ

　行こう行こう 火の山へ

　行こう行こう 火の山へ

　フニクリ フニクラ フニクリ フニクラ

　だれも乗るフニクリ フニクラ

　依田が突然、言った。「あれー？『鬼のパンツ』じゃないの？」

　服部が笑って、今度は服部が歌い出した。

　おにのパンツはいいパンツ

　つよいぞ　つよいぞ

　トラのけがわでできている

　つよいぞ　つよいぞ

　5年はいてもやぶれない

　つよいぞ　つよいぞ

　10年はいてもやぶれない

　つよいぞ　つよいぞ

　はこう　はこう　おにのパンツ

　はこう　はこう　おにのパンツ

　あなたも　わたしも　あなたも　わたしも

　みんなではこう　おにのパンツ

　「こっちは、替え歌の方だよ。興味ある人はネットで調べて見たら？」

　伝子は、子供の頃、どっちが正しいか、クラス中で論争になったことを思い出した。

　あんまり、しつこく続くので、「どっちでもいい！」と怒鳴ったら、先生が拍手して、説明してくれた。外国から来た歌は、後から多くの替え歌が出来た、と。

有名なものは『リパブリック賛歌』などがあり、『蛍の光』にも替え歌がある、と。

正に、『喧嘩両成敗』だった。

　午後2時。シェフとコックが帰って行った。

　そして、宴は突然中断した。アラームが鳴り、EITO用のPCが起動したからである。

　EITOシェルターからの画像が現れた。

　「大文字君。宴の最中に悪いね。これを見てくれたまえ。」

画面には、Intergramの画像が映し出された。

　《やあ。楽しかったよ。忍者とエマージェンシーガールズの追っかけっこ。後から考えたら、東京マラソンの方が良かったかな？何でバレちゃったかな？ああ、検索条件で最初に来るようにしたんだったな。3月11日、予定空いてる？》

　「後で、EITO秘密基地に行ってくれ。善後策を考えよう。」理事官がそう言うと、画面は消えた。

　「地下鉄サリン事件に関連付けるかと思っていたが、違ったな。」伝子が呟くと、山城が、「3月11日って東日本大震災の日だ。どこを狙う積もりだろう。」と言った。

　「先輩。僕らに構わず、行って下さい。」と服部は言った。

　「後片付けは、私たちでやっておきますから。」と、慶子は言った。

　「遠慮した積もりは無いがナア。」と、伝子が口を歪めて言っている間に、高遠は台所の準備にかかった。

　「何ですか？」と文子が言うと、蘭が「ここから先輩は出撃するのよ、お義姉さん。」と蘭がいたずらっぽく言った。

　やがて、オスプレイの音が外に聞こえて来た。

　「おいでなすったわねえ、今日のお迎えは、やっぱり一佐かな？」と、栞が言った。

　「多分な。」と、物部が短く言った。

　台所の外にロープが降りて来るのを見て、「到着したか。やっぱり早いな。」と南原が言った。

　用意が調った伝子は、外のロープを掴み、空に消えた。

　文子は、驚いて、その台所の外に出て様子を眺めた。

　「びっくりでしょう？文子さん。これが先輩の日常です。」と、福本が言った。

隣のベランダから、藤井が手を振った。

　文子達が中に入ると、高遠は発進口を仕舞い始めた。

　「そろそろ後片付けをして、お暇しますか、皆さん。」と、物部が号令をかけた。

午後3時。EITO秘密基地。会議室。

　「今回の幹、闇頭巾は、お調子者の振りをして計算高い。Intergramの最初の方にトレンドを持って来るように細工している。前回の忍者募集のサイトは、闇サイトじゃない。若者が利用しそうなサイトに割り込んでいる、と草薙さんが言っていた。それと、すぐに痕跡を消す、とも。狡猾だから、どんな作戦を打って出るか、推測しがたいね。」

　伝子は、開口一番、そう言った。

　「Intergramですね。」あつこが口を挟んだ。

　「しかも、誰かに呼びかける方法をとっていない。我々に分かり、一般人には分かりにくい。自信がある証拠ね。東日本大震災の日まで、まだ時間はあるけど。もう少しヒントがあればなあ。」

　「自力で探すしかないだろう。明日から新メンバーが加わる。シェルターから出られないことはないが、敵に手の内を見せる事になる恐れがあるからEITO本部は表立って身動き取れない。明日は、久保田管理官がここに来る。当面、臨時司令官だ。」

　翌日。午前10時。EITO秘密基地。

　久保田管理官が、皆に新メンバーを紹介した。「先ず、工藤由香。早乙女に代わって、白バイ隊からの出向だ。本郷弥生二等陸佐、陸自からの出向だ。そして、愛川静音（しずね）準隊員だ。愛川はEITO直属だ。後1名。男子だ。馬場力（ちから）三等空佐。空自からの出向だ。彼は元MAITOメンバーだ。もう一人。アメリカ海軍からの出向予定の軍人がいるが、彼は来月か再来月からだ。」

　新人達は、個々人、挨拶をした。

　アラームが鳴った。EITO本部のシェルターからだ。

　久保田や伝子達は。臨時司令室に向かった。

　ディスプレイから、理事官が言った。

　「江東区の深海銀行江東支店に、銀行強盗が押し入った。忍者の格好をしているので、行員は映画の撮影かと思っている内に、まんまと金を持ち去られた。既に逃走して指名手配されたが、忍者の格好をしていることから。闇頭巾と関連があるかも知れないので、手動要請が来た。」

　「了解しました。アンバサダー、出動だ。」

　「了解。私と、なぎさ。増田は銀行に向かう。あつこ。警察側体制を頼む。類似事件が発生する恐れがあるから、他の者は待機して待て。」

　伝子は手短に指示を出した。

　午前11時。

　伝子のマンション。玄関ドアが何かの爆発物で焦げた。

　すぐに。緊急防犯装置が作動した。

　隣の藤井は、装置が作動したのを確かめ、EITOと伝子に連絡した。

　午前11時。深海銀行江東支店

　現場に到着すると、久保田警部補と井関権蔵が待ち構えていた。

　「遅いぞ、大文字君。」と、井関は優しく笑って伝子に耳打ちした。

　「済みません。」と、伝子は井関に謝った。「裏に回ろう。」

　井関は、侵入口を示して説明した。

　「実に手際のいい連中だ。支店の裏側に駐車場がある。表から目立ちにくい。そして、大きめのトラックを駐車して、目隠しを作った。トイレのアルミサッシを内側から外している。電話線を外からの引き込み場所で切断している。ブレイカーを落せばやりたい放題。泥棒は逃げる算段をしてから盗む、というセオリー通りだ。」

　「久保田さん、表の入り口は？」「正面入り口は『故障中』の札が下がっている、内側から。施錠はされていない。」

　2人の会話を聞いて、「心理トリックですか。」と、なぎさが言った。

　「副隊長。心理トリックって、どういうことですか？」と増田が言った。

　「施錠しなくても、客は施錠していると思い込む。案内の絵が無くても、小さい　ATM用のドアに向かう。」と、なぎさが言った。

　「忍者の格好も、あまりにもポピュラーだから、拳銃なんかなくても、目潰しになる。現に、他の利用客は気が付かなかった。単純に、大きな鞄に詰め込むのをただぼんやり見てしまったという証言がある。」

　久保田警部補の言葉に、「どれくらいの時間ですか？」と、改めて伝子が尋ねたら、「僅か15分。まあ、それは行員や利用客が見ていた時間だ。」と、吐き捨てるように言った。

　伝子は、スマホを出して、あつこに尋ねた。

　「どんな具合だ？」「非常線突破。おねえさま。恐らくクルマを乗り換えたんだわ。」

　伝子のスマホに高遠からのLinenのメッセージが届いた。

　［玄関にバーナーを向けた奴がいる。非常装置作動。無事。］

　伝子が眉をしかめたのを見て、「どうしました、大文字さん。」と久保田警部補が言ったので、伝子は画面を見せた。

　午後1時。EITO本部シェルター臨時司令室。

　草薙が叫んだ。「あ！」理事官が寄って来て尋ねた。「どうした、草薙。」

　草薙のPCの画面には、あるサイトの募集広告が映っていた。

　「銀行強盗ごっこをしてみませんか？忍者の格好をしているからバレません。実は映画の撮影のエキストラなので安心。隠しカメラで撮影しています。撮影時間は15分から30分くらい。誓約書にサインして貰えば、前金で5000円を振り込みます。奮ってご応募下さい。」

　理事官は頭を抱えた。

　―完―