魔法の杖とジュゴンのぬいぐるみ

藤泉都理

魔法の杖とジュゴンのぬいぐるみ





 ほらよくあるでしょ。

 盗んだ魔法の杖をぬいぐるみに隠して、あとで回収するってやつ。

 私もさ、ばっちゃんの魔法の杖を盗んで。

 いや~ほら。

 ばっちゃんの魔法があまりに強力だからさ。

 思ったわけよ。

 これは杖の力のおかげじゃないかって。

 だってさ、マンドラゴの花粉、竜の髭、虹の石で作られたってもう最強じゃん。

 ばっちゃんの力じゃないって。

 いやいや、ばっちゃんがすごいのは知っているよ知っているけど。

 やっぱり杖のおかげっていうかね~。

 だからさ~、できそこないの私も杖を使えばさ~、だいたい平均的な魔法使いになると思うわけよ~。




「です」

「情けないですね」


 正座にさせられた私は目の前で立つ美しい人魚を見上げた。

 これぞ杖の力なのだろう。

 チャック付きのジュゴンのぬいぐるみにばっちゃんの魔法の杖を隠した途端、ジュゴンのぬいぐるみから眩い光が四方八方飛び出したかと思えば、この美しい人魚が立っていたのだ。


「おばあさまの実力があってこそ、この世界最強と謳われる魔法の杖も活かされるのです。あなたがあのまま持って、あまつさえ使っていたら、瞬時にミイラと化していましたよ」

「はい」

「力はすぐに手に入れるなんて無理です」

「はい」

「けれどまあ。力を欲したのは、まだ見込みがあります。よろしい。私があなたを美しく強い人間になれるように手を貸しましょう。よろしいですね。マイマスター」

「ええ」

「げっ」


 瞬時に振り返った先には、ばっちゃんがいて、にっこり笑っていた。

 わあ、初めて見たんじゃない?ばっちゃんの笑顔なんて。

 うん。超怖い。


「で。でもでもさ。杖がないとばっちゃんも仕事に支障が「出ません。いっぱい鍛えてもらいなさい」

「でもでもさ。人魚は陸では生きて行けない「ぬいぐるみなので気遣い無用ですよ」






 盗みなんてするんじゃなかった。

 後悔しても遅い私は、この日から断末魔の叫びを何度も上げ続けたのであった。












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