私のかわいい友だち

micco

ままごと

「あたしのメグ、どこー?」


 ソファじゃないの。ママがお肉を炒めながら、ちょっとだけ振りむいた。


「あ、あったー。よかったぁ。だめじゃない、勝手にはなれちゃ」


 ソファにころりとねっころがるメグにほっとした。「メグかわいい」なでなでする。

 自分が放っといたんでしょ!

 ママがイライラして何か言ったけど、こういうときは知らないフリだね。お仕事で疲れてるのかな。私はメグをだっこして、自分の部屋に引っこむことにした。


「……ごめんね、メグ。ひとりにして」


 ぎゅっとだきしめた。イライラのママは嫌だったけど、たしかにメグはひとりで歩けないもんね。

 メグは茶色のふかふかで、黒い目がかわいいぬいぐるみ。でも小さくてすぐつぶれちゃうから、優しくやさしく。


「メグはかわいいねぇ。そうだ、ひさしぶりにお着替えしよう」


 お着替え楽しいな。メグ専用のタンスを開けて、あぁでもないこうでもないと服を選ぶ。ピンクがいいかな、でもたまに水色もいいかな。メグはなんでも似合うから、迷っちゃうなぁ。


「よぉし、かんぺき。かわいいよ、メグ」


 結局、お気に入りのピンクにして、首のところのリボンをきゅっと結んだ。ちょっと下手で曲がっちゃったけど、まぁいいか。あとでママに直してもらおう。


「そうだ、今日はおままごとがいいな!」


 ね、メグもみんなと遊びたいよね。茶色のまき毛を撫でて、私はほかの子を選びにとなりの部屋へ。あ、今日もカレーみたい。つんと匂いがした。

 ママがあんまりあると怖いからって、部屋に置くのはひとつだけっていうから……みんなといられないんだ。ママのけち。


「いっしょにおままごとするのは、だぁれ……!」


 んふっふ。みんなかぁわいい。

 ミクは青いお目めが素敵だし、ハナはふつうの顔だけど着てたレースの服がかわいくて――。


「あ、そっか。おままごとだから……繝代ヱも、いるかなぁ」


 ふっと繝代ヱのことを思い出したけど、ママがご飯よ! と呼んだからよく分からなくなった。濃いカレーのにおいで、なんだかおなかがムカムカする。

 呼ばれたけどご飯を食べる気にならなくて、ハナだけ引っぱって部屋にもどった。がしゃら。

 メグとハナと私でおままごとしよう。


「こんにちはー遊びにきましたぁ」

「どうぞーおかしがありますよ」

「わぁおいしそう!」


 ハナが家に遊びにきた。がしゃら。私とハナは仲良し。


「もぐもぐ。おいしいね」

「あたしも食べるー」

「こらメグ。ハナのおかしは食べちゃだめ!」


 メグがハナのおかしを勝手に食べちゃった。悪い子。私はメグの繝槭?だからちゃんとシツケをしなきゃ。


「メグのはこっち、繝槭?のを食べていいから」

「あぁおいしい繝槭?ありがとう」

「ねぇねぇ今日のご飯はなぁに」

「カレーだよ」

「メグはいやだなぁ。ちがうの食べたいなぁ」

「こらっ。そんなこと言っちゃいけません」


 メグがへっこんだ。

 ハナのレースが、がしゃら。


「そういえば、今日は繝代ヱさんはお仕事?」

「そうなの。毎日いそがしいみたい。夜もおそくって」

「あぁ繝代ヱさんって、頑張り屋さんだもんね」

「そうなの、土日も帰って来なくて。あれ、どうして繝代ヱのこと知ってるの」


 うふふ。ハナが笑った。


「だって繝代ヱさん……。ううん、菫贋ケさんはあたしの所にいるからもう帰って来ないわよ」


 ご飯だって言ってるでしょ! ママがいきなり部屋に入ってきて、ひっ! と短く悲鳴を上げた。腕で顔をかくす。ママはいつもそう。

 私はメグとハナを下ろして、ママを見上げた。下から見ると、ますます皺だらけ。もう七十だもんね仕方ないよ。


「ごめんなさいママ。今行くから」

「メグはカレーやだなぁ」

「こらっだめそんなこと言っちゃ」

「そうよメグちゃん、繝槭?の言うことは聞かないと」


 あ、あ、あ、あああ、あ。なんで捨てたのに、どうしてまた。

 ママが大声を上げて出て行った。

 私はハナとメグを見下ろして、二人を撫でた。だって、二人がいないとおままごとはできない。あれ? 繝代ヱはどこに置いたんだっけ。隣の部屋かなぁ。

 空っぽのレースが揺れて、ハナが囁いた。綺麗にお化粧した顔がにんまり微笑んだ。なんか急にイライラする。


「貴方のは『ままごと』なの。菫贋ケさんはもう帰ってこない。メグちゃんから繝代ヱを奪っちゃうのは可哀想だけど、仕方ないわよねぇ」

「お客さんと会うのにもそんなパジャマみたいな服じゃぁね。菫贋ケさんも愛想尽か」


 がしゃら。あぁばらばら。



 ***



 メグ、今日は何してあそぼっか。え、ハナ? ハナはいじわるだから、はんせい中だよ。セロテープがもうないし。あ、そうだ。

 新しいお友だちが来たんだよ。じゃーん、ママです! ね、まだふかふかだよ。

 あぁかぁわいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私のかわいい友だち micco @micco-s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説