わたしの妹と従姉ぷらすあるふぁ第二話『ぬいぐるみ』指先だけは魔術師です。

神無月ナナメ@カクヨム住人(非公式)

世界で一つだけのぬいぐるみを作った相手。

「ねぇねぇユリちゃん。ヌイグルミっていったら最初になにを考えちゃう?」

 明け日勤が不満なのか化粧室の鏡にイィッて表情を歪めたベロだしの従姉。


「ぬいぐるみマスコット……動物とかアニメキャラ? あんま興味ないけど」

 ポケモン興味ないしなぁ。めっちゃ昔だけど……ぼのぼのなら欲しいかも。


「そだよねぇ。あーしらって昔からオタクの割にグッズ。収集辟ないもんね」


「推し活だとかアイドルなんかも興味ない。可愛げのない隠れオタだからさ」

 なんでオタ性癖を隠したいのかって時々かんがえちゃうぐらいなんだけど。


「あぅ。原作マンガや本ならすぐ買っちゃうけどDVDブルーレイ買わない。

あぁっあれあれエリちゃん手作りぬい。あーしらお揃い手縫いあんじゃん!」


 いきなり手のひらパパンと叩いたゆうこりん。勇気りんりんじゃないから。

もちろん愛と勇気だけが友達じゃない。みんな大好きアンパンマンでもない。


 そうそうそう。あれもらったのいつだっけ? いまも隠し持つ宝物なんだ。


 二歳下になる妹は天使だ。もちろん外見だけじゃない。内面がすばらしい。

あたしたちは誰も気づけなかった。動作とか言葉が遅いから検査したのかな。



 両親がいた当時はまだ問題なかった。中三の頃に母が仕事中の事故で死ぬ。

看護大学めざす従妹の家に妹を預けた。福祉ボランティア科がある高校通い。


 卒業する前に介護福祉士は無事合格。それなりの条件で老健に就職したの。

学校と先生によく考えろと指導された。給料と休みにスキルまで欲しかった。


 高齢者介護の現場は職員が女だらけ。もちろん看護業界も同じ状況だけど。

いままで関わったり目にしてきた施設。ほとんどドロドロさは同じだったよ。


 なりたい自分のために耐えた五年間。工場経営の父も心臓発作で急死した。

いろんな感情がはじけ飛んで泣いたの。傍で一緒に泣いたエリと優子ちゃん。



 やるべきことを終えると時間の問題。そのまま流れで請われた転職だった。

ケアマネージャーの試験対策も受けた。高卒には難しい法律と数字ばっかよ。


 なんとかギリギリ合格はラッキーだ。すべてが報われたように感じたから。


 なにかを得るため捨てるものがいる。実妹のエリは行政に任せるしかない。

支援学校を卒業してからの一般就労だ。もの凄くラッキーだったと耳にした。


 支援学校先生による直接指導らしい。指先の器用さから伝授された編み物。

巷で噂の一芸入試に等しい幸運だよね。芸は身を助けるを身内で実感したよ。



「これは永遠に色あせないタカラモノ」ポーチの取っ手は小指くらいの人形。

 いま泣いた烏がもう笑うはことわざ。ゆうこりんが満面の笑顔で微笑んだ。


「そうだよね。世界に一つだけの人形。世界最高の愛が詰まったぬいぐるみ」

 世界に一つだけの花を手がけた彼はLGBT。代弁者だけど誘惑に負けた。


 自分に素直な感情より優先すべきもの。バランスと健全な精神性も必要だ。


『ぬいぐるみ作りおかーさんに習った。あたしたちは世界に三人だけの家族』

 後ろ手にした指先からはみだす指人形。はにかむ笑顔を迎えにいきたいな。


 いまはできることをやるしかない。遠くない未来の明るい暮らしのために。

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