うちの恒例行事

紫陽花の花びら

第1話

 来ちゃった雛祭り。この時期は嫌い。友達の家は雛人形が飾られる。気にしないって思っても、やっぱり来ないで欲しい季節。  

 友達は雛祭りの会に呼んだ呼ばないで……結構手厳しく線引きする。その輪から抜け出して早く帰っても誰もいない。

「ただいまぁ」 

しーん。テーブルには母からのメモ。

「久美へ。お帰りなさい。今日のおやつは雛あられだよ。お仏壇から下ろして食べてね。帰りはいつもと同じかな。お母さん」

特別のことは出来ないと言いながら、桃の花と雛あられは欠かさない母……有難う! でも本当は雛人形が欲しい……うん判ってる。もうすぐ十一歳だし、ずっと二人で生きて来ているから。でも寂しい。あれ? 涙だ……。キキを抱きしめながら、うたた寝しちゃった。目が痛いや。

「ただいまぁ」

お母さんに目判っちゃうかな。

「お帰り! 早かったね」

「うっ……そりゃそうよ! 久美が待っているんだもん」

母は着替えをすませると、

「久美? ぬいぐるみさん達出してぇ」

「何で?」

「感謝祭! 感謝祭!」

母は紙袋から小花の付いている赤い布を出した。

「感謝祭? そっかぁ。うさくんとイルカのキキとワンワンちゃん大切な家族だもんね」

「そう。いつも鼻水とか色々……拭いてくれてるもんね」

「付けてない!」

「はいはいそうですかぁ。久美、この子達をここに並べて」

カラーボックスを横にした雛壇を見ながら母は、

「少し寂しなぁ……あっ!」

母は部屋の置物を総動員してきた。

「感謝祭って、なんか良いね」

「でしょ? いつも久美と仲良く為てくれてるキキ、うさくん、ワンワンちゃん有難う。そしてこの子達も!」

私達は木彫りの熊から始まってひとつひとつ抱き締めた。

さあ今夜はちらし寿司。

「久美、いつか本当の雛人形……」

「もういらないよ。ほらキキ達見て楽しそうじゃない?」

母は笑って誤魔化しているけど。それから我が家の恒例行事。

「ぬいぐるみ達と置物の雛祭り」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うちの恒例行事 紫陽花の花びら @hina311311

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ