大好きだよ、私だけのぬいぐるみちゃん。

汐海有真(白木犀)

大好きだよ、私だけのぬいぐるみちゃん。

 私は貴女――塚田梅花つかだうめかのことを、心の中でぬいぐるみちゃんと呼んでいる。


「うーん、どの髪飾りにしようかなあ……決められないなあ……」

「その赤色のやつがいいんじゃない? 梅花の黒髪に映えると思うよ」

「あー確かに! そしたらこれにしようかな! ありがとうー、小桃こもも

「どういたしまして」


 何故なら貴女はいつだって、私の意見に従順だから。


「ど、どうしたの小桃! 目が腫れてる……もしかして、悲しいことでもあった?」

「……昨日、お母さんと喧嘩したの。本当に性格悪い子ねって言われて、悔しくて」

「ええっ、何それひどい! きっと言い過ぎちゃっただけだよ、小桃はいい子だもん!」

「あはは、ありがとう。梅花には敵わないけれど」


 その癖、私が辛いときに寄り添ってくれる温かさまでもが、よく似ている。


「小桃、ぎゅーしよ、ぎゅー!」

「別にいいけれど……貴女って本当に、人にべたべたするのが好きだよね」

「むう、もっといい言い方があるでしょ! ぎゅーすると幸せホルモンが出るらしいよー」

「そんな知識をどこで仕入れてきたのやら」


 ぬいぐるみちゃんを抱きしめると、柔らかくて、ふんわりといい香りがして、心地いい。


「んっ……んあ……ねえ、小桃……」

「なに?」

「やっぱり、友達同士でキスするのって、変じゃないかな……?」

「そんなことないよ。ねえ、もう一度だけ……」


 私はぬいぐるみちゃんの優しさに付け込んで、今日も間違いを繰り返す。


「ねえねえ、小桃は好きな人とかいるの?」

「さあね」

「さあね、って……はぐらかさないでよー、教えてよー!」

「教えないよ。……貴女には、特にね」


 ねえ、ぬいぐるみちゃん。多くは願わないよ。だから、どうか――


「小桃、大好き!」

「……どうしたの、急に」

「えへへー、大好きなお友達には、普段から大好きって伝えなきゃ!」

「ああ、そう。……私も梅花のこと、好きだよ」


 ――ずっと、ずっと私の側にいて。

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大好きだよ、私だけのぬいぐるみちゃん。 汐海有真(白木犀) @tea_olive

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