神様になったぬいぐるみ

八咫空 朱穏

神様になったぬいぐるみ

 写真の中でぬいぐるみを抱きしめる幼女は、東雲しののめ柘榴ざくろという女の子だ。彼女は、錬金術師となって自分の工房を持つことを夢見た。


 彼女はそのぬいぐるみをずっと大切にしていた。彼女が成長するにつれて、ぬいぐるみは汚れ、布は破け、糸がほつれてボロボロになった。


 そのたびに彼女はぬいぐるみを洗い、破けた布やほつれた糸を丁寧に補修していった。


 最初は、自分の着られなくなった服を使った。

 成長した彼女は自分で布を買い、それを使ってぬいぐるみを補修していった。

 錬金術師になった時には記念に、成長を見守ってきたぬいぐるみに宝石の目を付けた。


 彼女が大人になってからもずっと、ぬいぐるみは彼女のそばにあった。


「このぬいぐるみは、私をずっとそばで見てきたお守りのようなモノよ!!」


 彼女はぬいぐるみのことをからかった友達に、そんな言葉をぶつけたりもした。


 そして彼女が師匠から独立して、一人前になった日。工房が完成したその日の夜。ぬいぐるみに最後の補修を施した。




 写真の中の幼い私が、両手いっぱいに抱いているぬいぐるみ。そのを、私はひざに乗せている。


 かつては大きくてふわふわで柔らかいぬいぐるみだった、小さな金色の彫刻をでる。


 私が膝に乗せているのは、出会ってからずっと私を見守ってきた神様。今は昔と全く違う姿になってしまった。昔よりもずっと硬く、冷たくなってしまった。


 けれど、それでいいの。私の夢を一番近くで見守ってきて、それが叶ったときに最後の補修リメイクをしたんだから。


 この子にはずっと、夢が叶ったときの姿のままでいて欲しかったから。


「昔の姿と等価交換なんて……出来るわけないわよね」


 一緒に過ごした思い出は、何物にも交換できない価値のあるものだ。施した補修の数だけ、このぬいぐるみには価値が宿った。


「これからも私のこと、ずっと見守っていてね」


 写真と同じように、を両手で抱きしめる。

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神様になったぬいぐるみ 八咫空 朱穏 @Sunon_Yatazora

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