古本屋あかり堂

KKモントレイユ

夜の書店

 私は帰宅途中にドラッグストアに立ち寄り、普段と少し違う道を通って帰ることになった。知らない道ではないが少し遠回りになると思いながら歩いていると見慣れない書店が目に入った。

『古本屋あかり堂』


『こんなところに本屋さんなんてあったかな?』

 夜の十時を過ぎ。人がいる気配はない。店の前には週刊誌が置いてある。古いものなのだろうか。昭和五六年四月三日という日が書かれてある。

 中に入るがお客さんは誰もいないようだ。懐かしい本がたくさんある。私が中学生の頃読んでいた少年マンガが目に飛び込んできた。

 思わず懐かしくて手に取る。そこには中学時代、私が夢中になった漫画が掲載されていた。本を開くと、まるで今のことのように『連載中』という文字とともに、登場人物が敵と戦っていた。

 隣には私が当時よく見ていたロックバンドの雑誌や映画の雑誌が並んでいる。その中に、当時、私がよく買って読んでいた洋楽の音楽雑誌があった。手に取って開いてみると、ページの間に何かはさまっていた。

『手紙……』

興味をそそられるが何かふと気になる。ノートの一ページを切り取って書いたようなその手紙は当時の中学生がよく折っていた手紙の折り方できれいに折られていた。

裏に『和美』と名前が書いてあった。

 私の中学時代の初恋の女性の名前だ。その子はよくこの雑誌を学校に持って来て女子友達と楽しそうに読んでいた。

 結局、私は彼女に気持ちを伝えられず卒業し、お互いに別々の高校に進学しその後会うことはなかった。

 『見てはいけないかな』と思ったが気になる。開いてみると、宛名に『優君へ』と書いてあり、その文面には彼女の思いが綴られていた。

『優君』は私の名前だ。


「買いますか?」

「え」

「その本」

綺麗な女性に声をかけられた。

「はい。買います」

私は、少しあわてて、その手紙を閉じ込み、その本を買った。


その女性は微笑んで袋に入れてくれた。

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