天使の探偵

葎屋敷

古本強奪事件


 ここは天界。神様が世界を創造・運営し、天使たちはその手伝いをする雲の上の世界。天使たちは皆、神様の下で働けることに幸福を見出し、また仕事も遊びも仲間たちとともに楽しく愉快に暮らしている。

 天使たちは暖かい神様の平等な光に包まれているためか、穏やかな子や朗らかな子ばかり。そんな子たちばかりの天使たちの中で、大天使ナナコはちょっと変わった天使として有名だった。

 ナナコはのんびりとしていて、その点は天使らしい。けれど、神様のことを少しだけ苦手としているようで、大天使の位にありながら神には謁見することもなく、天界で百年に一度起こるかどうかの“事件”を解決するお役目を担っている。

 これは、そんなナナコが解決した事件のひとつである。


「大変です、大変です、ナナコ様! ナナコ様はいらっしゃいますか!」

「あら、シメジ。どうしたの、そんなに急いで」


ある暖かな午後の日であった。天界はいつでも眠たくなってしまうような、微睡を誘う日々の連続である。柔らかな日差しに包まれながら、自宅のテラスでティータイムを楽しんでいたナナコを訪ねて来たのは、ナナコの同僚、ハチロウの小間使い天使であるシメジだった。シメジは小さな体に生えた小さな羽根をパタパタと動かして、ナナコの下へ訪れた。いかにも急いできたという風で、汗がその額ににじんでいた。シメジは天使が皆来ている白いワンピースの裾を摘み、恭しくお辞儀をした。

 ナナコは腰まで伸ばした黒髪の毛先をいじりながら、シメジを観察していた。その視線にシメジは緊張して、腰に手を戻し、体をまっすぐにして空中で止まって見せた。ナナコのぱっちりと開かれた瞳は世界を覗く女神のよう。テーブルの上で滑る指はしなやかさの体現だ。そしてその羽根の美しさは、天界の中でも随一だった。


「はい。実は事件が起こってしまったのです、この天界で!」

「あらまぁ。事件だなんて、物騒だこと」


シメジが畏まって言うと、ナナコは眉を下げて困って見せた。それも無理のない話だ。天界では事件と呼ばれるような出来事はそうそう起きない。もし“事件”と呼ばれるようなことを起こす者がいれば、堕天の兆候があるとして、下界に追放されてしまうだろう。皆、それが嫌なのである。


「随分と久しぶりのお仕事になりそう。百五十年振りかしら」

「はい。それでですね、大天使ハチロウ様が、こういった不思議なことはナナコ様に解決してもらうようにと――」

「そうはいってもね、シメジ。私は神様ができることの代わりを少ししているだけなのよ。基本的には、神様に尋ねてしまえばいい話なの。不思議なことがあったのなら、ハチロウが神様にお伺いを立てたら良いのに」

「その、確かに神様は全てを見通す方ですが、五日前から銀河を創造しておられまして……」

「まぁ、また世界をひとつ創られる気なの。それじゃあ、今は力天使と一緒に創造部屋に缶詰かしら。手が空きそうにないし、わざわざ会いに行くほどじゃないわね、きっと」


 ナナコが理解を示すと、シメジはぶんぶんと首を縦に振った。嬉しそうに頬を紅潮させ、手を固く握りしめている。


「そうなのです! ですから、天使の探偵と呼ばれたナナコ様のお力をお借りしたく!」

「そんな大層なものではないですけれどね。まぁ、いいでしょう。何があったのか、お話ししてちょうだいな、シメジ」


 ナナコからの許しに、シメジは改めてピンと背筋をまっすぐに、顔には緊張を張り付けた。そして、事のあらましを意気揚々と語り始めたのである。


「はい。事件の始まりは三日前でございます。天界門前の清掃を担当している天使タケノコが持っていた本が強奪されたのであります。その痴れ者はタケノコを後ろから殴り、気絶したタケノコが持っていた本をそのまま盗って去ったのです」

「まぁ、まさか悪魔が侵入してきた、なんてことないでしょうね?」

「ええ、それはありません。報告にもあがっておりませんし、悪魔なら呪いを使うでしょう?」

「それもそうね。殴ったのは、天使同士だと魔法も奇跡も効かないからでしょうし、犯人は天使よね、きっと。強盗なんて随分悪いことだもの、遅かれ早かれその子は追放されるでしょうね……、残念なことだわ。それで、不思議なことというのは何のこと? 久しぶりに堕天してしまう子が出たこと自体が不思議ということ?」

「いえ、それも確かに不思議なのですが、それ以上に不思議なことがあるのです。なんと、これと同様の事件が二日前に二件、昨日にも一件報告されております。皆、後ろからこっそり近づいた強盗犯に頭を殴られ、持っていた本を強奪されておりまして」

「まさか、そのすべてが同じ本、だなんて言わないわよね?」

「その通りです。盗まれたのは、すべて同じタイトルの本なのです」

「まぁ! それは興味深いわ」


 ナナコは偶然の一致とは思えぬそれらの出来事に興奮し、勢いよく立ち上がった。頬が紅潮し、合わせた手がパンと音を立てる。


「もっと詳しく教えてちょうだい」

「はい。本は山田太郎という人間の人生史でした」

「あら、人間の人生史。みんな好きね、人間の一生を読むの」

「我々に思いつかないことばかりしますからね、人間たちは。面白いのです」


 人生史というのは、一生を終えて転生していった人間の記憶を一冊の本にまとめた読み物のことである。淡々と神に遣える天使と違い、人間の人生は波乱万丈だ。その波乱万丈さは他人事として読むには最高の娯楽であり、昔から天使たちは人生史を嗜むのである。天界の本屋はこれを毎日のように仕入れては売りさばいており、商売は繁盛しているといえる。なお、人間が住む下界と異なり、天界では万引きされる可能性は万にひとつもない。そのことが商売繁盛の秘訣といえるだろう。


「盗られてしまった本はどれも山田太郎さんって人の人生史なのね? そんな面白いの? その山田太郎さんの人生は?」

「ええ、山田氏はごく一般的な人生を過ごしておりますが、波乱万丈といえば波乱万丈なのです。山田氏は子どもの頃は地味で大人しい、言ってしまっては申し訳ないのですが、いたって面白みのない人生です。地元の高校を卒業した後は名前を書けば入れるような大学に入学。だらだらと毎日動画を見ては授業の単位を落とし、六年目で卒業した後は地元の業界シェア一位である文鎮メーカーに就職します。ここからが驚きなのですが、初めてできた彼女に騙されて会社を退職しエビの養殖事業に手を出すが失敗し、借金三百万をこさえ、破産してしまうのです。彼女にも逃げられた反動か、世の中の妻子持ちを見下すようになり、あげくの果てには独り身のままで一生を過ごすことになりました。最後には孤独死を嫌がり、風俗嬢に泣きすがるものですから、“ハツラツぼっち元気爺”と親しまれながら人生を終えました」

「その人生史、読んでて楽しいの?」

「ええ、スリリングでハラハラするのです。結構有名な本ですよ。被害者の皆さんも読むのを楽しみにしていたそうですが、半数の方は途中まで読んだところで盗まれてしまったものですから……」

「あまりその内容が事件を解く鍵になるとは思えないわね。ちょっと、被害者の中でお話しきる子いるかしら」

「はい、そのお言葉を待っておりました」


 シメジの案内で、ナナコは最初の被害者であるタケノコの下を訪れた。タケノコはシメジより大きな頭をしている天使で、首が頭の重さに耐えかねるように少し右に傾いていた。


「そうです、そうです。突然、どかーんと後ろから殴られました。最初は悪魔がこっそり天界に忍び込んで悪さをしているのかと思いましたが、そんな報告ここ千年くらい上がってないでしょう? だから、多分堕天しちゃったんじゃないかなぁ、僕を殴った奴は」

「天使を堕ちるのは、悪魔が誑かすか、神が乱すか、人間のひどい人生史に汚染されるから、でしょう? 悪魔はあなたが言った通り、最近のセキュリティのおかげで天界には入ってこれないし、神様は創作部屋に入っておられますから、ほとんどの天使は会えない。人間史も厳しく検閲されてるんですよ? どうやって堕天すると?」

「僕も不思議なんですから、訊かないでくださいよ」


 タケノコは自分の頭をさすりながら、自分を殴った天使は堕天したのだと主張する。確かに、仲間を殴るような天使は少なくとも堕天しかけている。けれど、堕天とはそう簡単に起こらないのだ。その推定堕天使がどうして山田氏の人生史を集めているのか、そもそもどうして堕天したのか。この二つの謎を解かなければ、事件解決とはいえない。


「タケノコ、いくつか質問したいのだけれど」

「はい、大天使ナナコ様! なんなりとどうぞ!」

「どうして山田氏の本を買おうと思ったの?」

「自分がいらない本を古本屋で売りまして、そのついでに商品棚に並んでいたそいつを見つけて、面白そうなので買ったのです。山田氏の人生はオオグソクムシを食べるような味がしました。あれは、山田氏の人生をまとめた天使が優秀ですね」


 途中まで読んでいた人生史の内容を振り返り、タケノコは大きく頷いた。人間の人生史は記憶の要点や盛り上がるエピソードを検閲係の天使がまとめることで娯楽として成立する。そのまとめ方によって、人生史の面白みが何割も増したり、逆に減ったりすることは常識だ。タケノコの言っていることは、ナナコにもよく理解できた。


「そうなの。それはさぞかし素敵な本だったのでしょうね。その素敵な本を、あなたはどこの古本屋で買ったの?」

「すぐ近くのヒラタケの店で買いました」

「そうなの。その本に変わったことはあった? 例えば、なにか落書きがされていたとか」

「いいえ、特になかったと思います」

「そう、どうもありがとう。シメジ、行きましょう」


 ナナコは満足すると、シメジと共にタケノコに別れを告げた。

 その後も、ナナコとシメジは被害者から話を聞いてまわった。すると、被害者たちからある共通点が浮かび上がった。それは、皆、盗まれた本をヒラタケの古本屋から買った、というのだ。ナナコとシメジは、すぐにヒラタケの古本屋へと向かった。

 ヒラタケの古本屋は、天界三十五番地にある、天界の中でも歴史のある本屋だ。ナナコは店の前に着くと、ガラガラと店の引き戸をずらす。年季の入った店の扉は開きづらい。人間が盗みを働く下界と異なり、天界では泥棒が入ることも珍しい。そのためか、壊れた鍵は放置されたままだ。店の中にナナコが入ると、奥のカウンターでは店主が髭をさすりながら本を読んでいた。店主のヒラタケだ。豊かな白い顎髭を蓄え、つるぴかの頭をしているのが特徴だった。



「ごきげんよう、ヒラタケ。あなた、山田太郎氏の人生史と聞いて、思い当たることはない?」

「これはこれは、ごきげんよう、ナナコ様。山田太郎氏、はて、その者の人生史を売ったような気もしますが、しいて思うことはありませんなぁ」

「盗まれたりとか」

「ありませんな。在庫もしっかりございますよ」

「そう、それは結構ね。でも、三日前になにか失くしものをしたのではなくて?」


 ナナコがそう言うと、ヒラタケは目を瞬かせた。


「これは驚いた。よくわかりましたね。実は、本を売る時に付けている帳簿がなくなってしまいましてな。これでは人生史の流通が不透明になってしまうと、文化流通調査センターに怒られてしまいましてね。ずっと探しているのですが……」

「あら、それは大変。ヒラタケ、山田太郎の人生史を売りに来た天使はわかるかしら」

「ああ、買取の帳簿は失くしてませんよ。ほら、ここに」


 ヒラタケはカウンター下から、ひとつの青い帳簿を取り出した。そこには、店に来た買取客と、持ち込まれた本のタイトルがずらりと書き記されていた。ナナコはその買取に来た者の名前一覧に目を滑らせる。すると、ある名前でその目を留めた。


「あら、随分とお偉いさんが来てるのね。統治ばっかりしてる権天使や、力天使も一回だけ。あら、ハチロウまで来てるわ!」


 ハチロウの名前を出すと、シメジがそわそわとしだした。ヒラタケはシメジの様子を微笑ましそうにみて、ゆっくりと頷いた。


「はい、ご贔屓にしてもらっています」

「ふふ、いいものを見せてもらえたわ。これ、お借りしてもいい?」

「ええ、どうぞ」

「ありがとう。シメジ、行きましょう?」

「あ、待ってください、ナナコ様!」


 ナナコは買取帳簿を持って、シメジを連れて店を後にする。美しい羽根が生えたその背中に、ヒラタケは「またのお越しを!」と声をかけるのが精一杯だった。



 *



 店を出た後、シメジはナナコを縋るような目で見上げていた。その視線を受けて、ナナコはゆっくりと微笑む。その笑みは一輪の高嶺の花のようでありながら、庭先で春を祝う愛らしいコスモスのようでもあった。


「ナナコ様、これからどういたしましょう?」

「あら、どうするもなにも、もう謎は解けたわ。あなたはこれからハチロウに報告しに行きなさいな」

「え、もうですか!」


 シメジはナナコの言葉を信じられず、口を開けてじっとナナコを見つけた。背中から生えた羽を動かすことも忘れ、シメジの足が雲の上に触れてしまう。ナナコはそれを愉快そうに、愛しいものを見るかのように微笑み、自身の推理を語り始めた。


「いい? この事件の謎は二つ。誰が強盗をしたのか。それと、どうして強盗をしてしまったのか。まず大前提として、天界で強盗なんて悪いことをするのは、悪魔、それか堕天使、堕天しかけている天使のいずれか。悪魔はあなたが言っていたとおり、最近セキュリティが厳しくなって天界に入れないわ。だから、強盗犯が天使なのは確定。悲しいわね」


 ナナコがふっと目を伏せる。片頬に添えた手で、結んだ口元を隠すその上品さが、シメジの心をくすぐった。ハチロウが、「ナナコは悪気がない悪魔のような天使だ、気を付けろ」と言っていたことを思い出し、シメジは思わず苦笑した。そんなシメジの表情には気づかず、ナナコは推理の続きを話し続ける。


「天使が堕天するには、悪魔と接触するか、人間の人生史に悪影響を受けるか、神に心を乱されてしまうかだけど……。悪魔との接触なんて今のご時世すぐにバレてしまうし、流通してる人生史なんて厳しい検閲を通った後よ。山田氏の人生史もそうだけど、雲の上で暮らす私たちを汚染できるものじゃないわ。とすると、残された可能性はひとつ。神が乱したのよ」

「神様が乱した、というのは」

「もちろん、神様のことを気にするあまり、病んでしまった子がいるということよ。稀にそういう子がでてしまうの。それこそ、百数十年に一度くらいね」


 確かに、ナナコのいうとおり、神に身分不相応にも激情を抱き、身を滅ぼしていく天使は定期的に現れる。特に、下位の天使にはあっても不思議ではない話だ。しかし、神に乱されるためには、神に会わなければならない。さすがに天使は神に遣える身といっても、普段会わない存在のために堕ちる天使はいないのである。

 だとすると、今回の強盗犯もまた、神に会って感情を募らし、ついには堕ちたとみるべきだが――、シメジはそこまで考えて、かぶりを振った。


「ですが、ナナコ様。神様は今、世界を創造中です。市井の天使とは接触していません。皆、神様に想いを抱くほどの時間が、積み重ねがありません!」

「ええ、だからね、強盗犯の正体も絞られるというものでしょう?」

「?」

「つまり、強盗犯の正体は、神様の近くで世界の創造を手伝っている力天使なのよ!」

 

  “力天使”が強盗をしたという真相に、目が飛び出そうになるほど驚いていた。力天使とは中位の天使であり、下位のシメジやナナコよりもさらに位の高い、えらーい天使様なのである。そんな天使が堕天するなんて、シメジには到底信じられなかったのだ。


「じょ、冗談はおやめ下さい。力天使様と言えば、世界秩序を守る方々なのに!」

「そうね。でも、そうと考えるのが自然なのよ。それにね、強盗を働いた理由もだいたい推測できるわ。いい? その力天使――仮にAとするけれど――は、同じタイトルの本ばかり盗んでいた。まるで山田太郎氏のファンみたいだけれど、別にAは山田太郎氏の本がいっぱい欲しかったわけじゃないわ。それだったら、ヒラタケの本屋でありったけ買うなり、悪いことだけれど、盗んでしまえばいい話だもの。ヒラタケの店は鍵がかかっていないし、簡単なはずよ。わざわざ色んな天使を襲っていく必要はないわ。なのに、Aはあえてヒラタケの店の本を盗まず、ヒラタケの店から本を買った天使からこれを盗んだ。つまり、Aの目的は山田氏の人生にあるのではなく、ヒラタケの店で買い取られた古本にこそある。要は、その本だからこそのものがあるのよ。例えば、その本になにかのパスワードを書いてしまったとか、なにかを挟んでしまったとか」

「挟んでしまったって、なにを?」

「もちろん、本に挟めるもの、でしょうね。仮に――違うと思うけれど――手紙でも挟まっていたとしましょうか。Aはその手紙がヒラタケの本屋にある山田氏の人生史に挟まっていることを知っていた。だから、Aはヒラタケの古本屋に忍び込んで、店にある山田氏の人生史を在庫の限り調べた。パラパラとめくれば、物が挟まっていないことはすぐにわかるでしょう。そして、手紙はどの本にも挟まっていなかった。Aは既に目的の手紙が本と一緒に売られてしまったことに気づき、ヒラタケの帳簿を盗んで、買った天使を虱潰しに襲って、目的物の居場所を探していた。そんなところでしょうね」

「なぜ、その目的としている物がヒラタケの店にあった本の中にある、なんてわかるんですか?」

「そんなの、自分が売ったからに決まっているわ! いい? Aは目的物を自分が持っていた山田氏の人生史に挟んだ。栞代わりに、一時的なものとしてね。後で回収するつもりだったのでしょう。でも、それを忘れてヒラタケの店に本ごと売ってしまった。後からその事に気づいたけれど、ヒラタケに事情を打ち明けて買い戻すことが出来なかった。きっと、一時的に紛失したことを知られるだけで困るもの……、世界創造に関する機密情報の文書でも挟んでしまったのでしょうね。天使としては、正直に打ち明けて謝ってほしいところだけれど、Aは神に嫌われたくない一心で、こっそり、自力で機密文書を取り戻すことにしたのよ。やっぱりダメね、神様の近くに長時間いると心が乱れてしまって」


 ため息混じりに語るナナコの瞳には憂いが映る。眼窩から零れる淑やか気配が、ナナコの姿をより美しく見せていた。


「では、力天使Aとは――」

「ヒラタケの買取帳簿に、力天使の名前がひとつ載っていたでしょう。山田氏の人生史と一緒に書かれていたわ。……このことを神様に知らせるかどうかは、ハチロウと相談なさいな。私の推察が当たっていれば、神様はAをトイレに流して、下界に落としてしまうでしょう? 恨みを買うのはゴメンだわ、私」


 ナナコの推理の余韻に浸り恍惚とするシメジを置いて、ナナコは優雅に手を振り、その場から飛び去って行った。



 *



「聞きましたかい、ナナコ様。力天使が下界に追放になったそうで」

「あら、それは怖いわね、恨みを買いそうで。ふふ、ところで、ヒラタケ。山田太郎の人生史、一冊ちょうだいな」

「はい、まいど。またの起こしをお待ちしております、天使の探偵様」

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天使の探偵 葎屋敷 @Muguraya

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