本屋さんでアルバイトをして一番嬉しかったこと

陽咲乃

本屋さんでアルバイトをして一番嬉しかったこと

 これはわたしが高校生のときの話だ。

 本屋でアルバイトをしていた姉が卒業を機に辞めることになり、わたしが後を引き継いだ。

 熟年の女性店長はやり手なのか、本屋の二階では塾を経営し、小さな店なのに学校の教科書を取り扱っていた。


 わたしの仕事は、本に挟まれているスリップを抜いてカバーをかけたり、売れた本の補充をしたりすることだ。

 レジに人が並ぶこともあるが、そんなに忙しい店ではなかった。


 だが、暇なときでもさすがに立ち読みをするわけにはいかない。その代わり、文庫本の裏表紙に書いてあるあらすじに片っ端から目を通した。


 その結果、いつのまにか作者名や題名も覚え、お客さんに訊かれたとき、どこに何があるのかすぐに答えられるようになった。


 おかげで、他の店員さんからも頼りにされるようになって嬉しかった。

 わたしは手先が不器用で、本にカバーをかけるのも遅い。姉と比べて使えないと思われてるんじゃないかと心配だったのだ。



 そんなある日、友人に借りた本を失くしてしまったという若い女性が来店した。

 おまけに本の題名も作者名も思い出せないという

 すごく困っている様子だったので、いくつか質問をしてみた。


「どんな内容でしたか?」

「登場人物は?」

「女性作家でしたか?」


 お客さんも一生懸命思い出しながら話してくれるが、どうも途中までしか読んでいないようで、内容はしどろもどろだ。

 だが、話を聞いているうちに、わたしの脳裏に浮かんできた本があった。


「もしかして……」

 わたしは本棚の中から一冊の本を抜き出した。

「これじゃないですか?」

 お客さんはハッとして目を見開いた。

「そう! これです、これ!」

 わたしたちは飛び跳ねんばかりに喜んだ。


「無理だと思ってたのに、本当にありがとう!」

「いえ、見つかって良かったですね」


 ベストセラーでもなんでもない本が、こんな小さな本屋で偶然見つかったというのもすごいが、読んだわけでもないのにあらすじだけで探せたのも運が良かった。


 まるで、お客さんと一緒に宝探しをしたような気分だった。




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 お読みいただきありがとうございます!

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