新本屋

脳幹 まこと

新本屋


 近所に新しく本屋が出来たらしい。

 古本屋ならぬ新本屋。なんだろう、新書ばかり取り揃えてるとかそんな感じなのかな。


 店内に入ってみると「書きたてほやほや!」やら「24時間以内に配送されました」といった場違いなポップアップが飾られている。

 人の入り方はまちまち。オープン直後にしてはちょっと寂しいかもしれない。

 ぐるりと店内を回ってみたが、取り揃えも普通。なんだ。単なる客寄せの誇張だったのか。


「うちの新本はいかがですか?」


 びっくりして振り返ると、厚いマスクをした神経質そうなおじさんがいた。名札に「店長」と書いてある。

 いかが……と言われても、普通としか答えられない。


「ワタクシ共は徹底的な品質管理に心血を注いでおりまして、お客様に安心な本をご提供すべく日々研鑽を――」


 うっとりした表情で何やら妙なことを口走る店長だったが「店長! 至急3番フロアに移動願います」という連絡を受けて、人目を気にせず全力疾走。



 一分後、私の方が先に現場に到着していた。店長が走った先が逆方向だったからである。

 制服を着た学生が立ち読みをしているだけで、特に変わったことはないのだが……


 学生が本を置いて、店の外に出ようとしたその時、おじさんの甲高い叫び声がした。


「なにやってんのお客さんんんんん!?」


 唖然とした様子の学生。何のことだか分からない。私もそう思う。


「これ、手に取ったよね?」


 先ほど取っていた本を見せつけてくる店長。

 きょとんとするばかりの学生に、店長は顔を真っ赤にしてこう言った。


「指紋が付いたら! 中古に! なっちゃうでしょおおおお!?」


 そういう店長は宇宙服を思わせる分厚い手袋をしていて、痕跡一つ残してやらんという気概を感じる。

 その後、説教は十分間続いた。


「これ、買わないんですね?」


 学生がこくりと頷くと、店長ははあ、と息をついてから、若い店員に「これ、古本屋に出しといて」と伝えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新本屋 脳幹 まこと @ReviveSoul

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ