かわいいいいわけ

十余一

かわいいいいわけ

 帰宅してまず、困惑した。

 それなりに整然としていた部屋は見る影もなく、まるで物盗りにでも荒らされたかのようだ。いや、それよりも酷い。


 無惨に引き裂かれたソファ、綿の飛び出たクッション、散乱するぬいぐるみ、そのほか棚や机の上に置いていたものはことごとく床に落ちている。幸いにも割れたり壊れたりするものは置いていなかったが。そして、とりわけ目を引くのは、床一面に散乱しているティッシュだ。杉にキレ散らかした重度の花粉症患者でもここまではしないだろう。


 戸締りは万全だ。外から誰かが入ってきた様子はない。部屋から無くなっている物もない。

 留守番をしていた子たちが部屋の隅で身を寄せ合っているのを見て、なんとなく察した。普段は好奇心で満月のように丸くなる目も、今はこちらの出方を伺うような色に染まっている。つまりは、そういうことなのだろう。


 遊んでいるうちにテンションが上がってしまったのなら仕方がない。まだまだ遊びたい盛りの子どもだから。もう過ぎたことだし、ここで叱りつけるわけにもいかない。しかし「怒ってないよ~大丈夫だよ~」と猫撫で声で言ってみても、二対の目は相変わらず探るような視線を向けるだけだった。


 一通り片付け終わったところで、私の膝に、白い手袋をしたような手が乗せられる。私の機嫌を伺うように、そっと、控えめに、ぽむっと。反対側から寄り添ってきた子も、ピンク色のかわいい鼻をこすりつけてくる。

 そして、とてもか細く、注意しないと聞き逃してしまうのではないかというほど小さな音量で「ニャー……」と鳴く。子猫なりの可愛らしい言い訳に、飼い主もとい下僕はメロメロになるしかないのだった。


「小雪ぃ~茶々丸ぅ~。ごめんねぇ~寂しかったぁ? ん~、一緒にいっぱい遊ぼうねぇ~美味しいおやつも食べようねぇ~。あっ、ああ! あ~! 待って、かわいい! うちの子たち世界一かわいい~!」



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