本屋芽胞

@aiba_todome

本屋芽胞

 芽胞とは特殊な細胞組織である。生育環境の悪化などに対処するために形成され、細胞は増殖のできない仮死状態となる。

 その後、また増殖が可能な環境が戻ると芽胞は発芽する。種や胞子と似た状態と言える。

 芽胞を形成する生物には、バシラス属やクロストリジウム属の細菌、そして本屋がある。


 近ごろ本屋の芽胞が増えて健康被害が多発し、社会問題になっている。感染するのは主に読書家で、肺に侵入した芽胞が発芽し、本屋となることで、部屋が本に埋め尽くされることになる。

 しかし一般人の部屋は、本屋の発芽には十分だが、成長するためのスペースや強度が足りない。部屋の床が抜けたりすることで、大怪我をすることになる。


 このように問題を抱える本屋芽胞であるが、その大量発生の原因は人間にある。インターネットの発達によって本屋を顧みなくなった人間は、本屋とその周辺を放置し続けた。

 さらに万引き犯などの被害によって、ただでさえ弱っていた本屋が芽胞を形成。結果、本屋芽胞が世の中にあふれることになったわけだ。森林が包丁されることで荒れるのと一緒である。


 私も本屋芽胞に感染している。もらったのは、おそらく近所の本屋の跡地でだ。

 子供の頃から通っていたのに、いつの間にか忘れ、気がついたときにはコンビニがたっていた。


 息を吸い込むと紙とインクがほのかに通り抜ける、あの本屋の匂いがする。残念ながら、というのも変だが、私の住まいは本屋が発芽するための気温や湿度の条件が合わないらしい。本は壁の一面を隠す程度である。


 近頃は体調が悪い日が続く。本屋芽胞に肺をやられたようだ。この症状は、昔は結核などと混同されていたらしい。今では結核は恐ろしい病気でもないが、本屋芽胞はいまだ有効な治療法がない。私も長くはないだろう。


 もし私が倒れるようなことがあったなら、本屋の発芽にちょうどいい、人里近くの風通しのいい日陰に埋めてほしい。

 そこからはいつの日か、立派な本屋が生えてくるだろうから。

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