これは一冊の絵本が紡ぐ、追憶と前進の物語。

「絵本」と聞いて、貴方は何を思い浮かべますか?
かつて読んだことのある絵本に出てきたキャラクターたち――例えば、犬や猫などの動物、かわいくデフォルメされたお化け――などを思い付く方や、「本」から連想して本屋さんや図書館を思い付く方など、人によって様々でしょう。

ですが、もしかしたら、"子ども"を思い浮かべた方がいるのではないでしょうか。幼い頃、絵本を読み聞かせて貰ったり、素敵な絵本を書店で買って貰ったり――といった思い出がある方は、少なくないのではないかと思います。

『あの子はここにいるから』という作品も、子どもと絵本の繋がりを描いた作品です。ですが、幸福な日常の一幕が描かれる訳ではなく、むしろ読んだときに胸を締め付けられるような、切なさがありありと感じられる物語です。

主人公の「私」はある日、商店街にある古本屋で一冊の絵本を見つけます。「私」はその絵本に、呼吸を忘れるほどの衝撃を覚え、暫くの間立ち止まってしまいます。
どうして「私」は、その絵本の存在にそこまで心を動かされたのでしょうか? その答えは、物語の中でしっかりと示されています。

777文字という短い文字数に、哀しみ、深い愛情、未来への希望――そんな様々な思いが込められている作品です。一冊の絵本によって紡がれた「私」の物語を、よかったら覗いてみてください。

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