生き物の話-B
彼女の声が聞こえてなくなるまで走って、走って、走った。
ふと立ち止まるりバケツを見るとびっくりしたザリガニが鋏を前に出して、警戒していた。
川を越え、歩道橋を渡り、行き着いた先は、学校だった。
門が閉まってて、入れなかった。
てんとう虫を見つけた時の嬉しそうな表情。
金魚を見るキラキラした横顔。
彼女を思い出すと、胸が熱くなった。
そうだ!
バケツのザリガニは家に持ち帰って、飼う事にしよう!
「ザリガニ!? 自分で面倒見れないでしょ? 捨てて来なさい!」
母に開口一番そう言われ、断念した。
川に再び戻ると、彼女はもういなかった。
彼女の声がちくりと刺さる。
川に立て看板が刺さってて、ザリガニの絵が描いてあった。
近づいてちゃんと見てみる。
ザリガニ、放流禁止。罰金300万。
「さっ! さんっ!? さんびゃくまん!!!」
書いてある罰金300万の文字に、背筋が凍った。
ザリガニのバケツを見る。
蠢く、赤い生き物。
恐ろしい生き物に見えて来た。
彼女はあの後、ザリガニを釣ったかもしれない。
この事、教えないと!
自分は、彼女の家へと向かった。
彼女の家の前に着くと、彼女が怒っている事を思い出した。
中々、インターホンに手が伸びない。
深く深く、深呼吸し、息を止めた。
「せーのっ!」
ピンポーン。
行く時か待っても、反応がない。
まだ帰って来ていないのかもしれない。
緊張が解け、吸い込んだ息を吐き出す。
「あ! ザリガニ泥棒!」
「えっ!? あっ!」
ドシン!! ビシャ!!
びっくりしてお尻から転んでしまった。
一緒にバケツも倒れ、ザリガニが這い出てくる。
「大丈夫?」
彼女は、僕の手を取って、起こしてくれた。
なんだかとても高揚した気分になった。
でもそれより、
「ざっ! ザリガニ、川に放したら、罰金」
「何?」
「ザリガニ、川に戻したら罰金取られるんだって」
「本当?」
「うん、看板に書いてあった」
「そーなんだ、知らなかった。じゃあ、飼わないとね」
「学校はダメだよ」
「なんで?」
「魚が食べられちゃう気がして」
「あー、そっか。そうだね、食べられちゃいそうだね」
「うん、食べられちゃう」
「それで連れてっちゃったの?」
「あ、うん。ごめん」
「ううん、教えてくれてありがとう」
彼女は、笑った。
次の日、学校へ行くと、水槽の周りに皆が集まっていた。
「どうしたの?」
水槽を覗き込むと、メダカ達がいなくなっていた。
浮いてもなく、ただ消えてしまった。
水槽の中で、
金魚だけが、悠々と泳いでいた。
「食べられちゃいそうだもんね」
昨日の彼女の声がコダマした。
その優しさから紡ぐ物語 ヤギサ屋 @sakine88
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。その優しさから紡ぐ物語の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます