生き物の話-A
その日は傘もいらないくらいの霧のような雨が降っていた。
むわっとした湿気が身体にまとわりついて余計に鬱陶しく感じながら、学校に向かって歩いていた。
少し先に、
僕の胸くらいの身長の女の子がうずくまっているのが見える。
赤いランドセルを背負っていた。
そういえば、先日のあの女子高生はどうしたろうか。
「どうしたの?」
女の子が振り向くと両手で包み込まれた掌の中には小さなヤモリがいた。
そういえば、昔こんな事があった。
同じクラスに赤いランドセルを背負った女の子がいた。
その子は、どこからかいつも何か生き物を拾って来て、学校に連れてくる。
最初はてんとう虫だった。
手の中に入れて教室に連れて来て、放して遊んでいた。
生き物の授業でも、先生はてんとう虫の話をしてくれた。
てんとう虫に少し詳しくなった。
次は、金魚だった。
彼女は、給食のプリンのカップに入れて連れて来た。
「お友達だよ」
そう言って、皆んなで教室のメダカの水槽に入れてキラキラと泳ぐ姿を皆で眺めた。
「綺麗ね」
水槽を見つめる彼女の無邪気な横顔は今でも覚えている。
その週末の日曜日、自分は神社で友達と遊んでいた。
「ねぇねぇ、あいつ、○○じゃね?」
友達が川でうずくまっている彼女を見つけた。
「何やってんの?」
彼女のそばへ近寄ると、川へ紐を垂らしていた。
「ザリガニ釣ってんの」
「ザリガニ? 何それ?」
ゴソゴソと、
バケツの中で2匹のザリガニが蠢いていた。
ザリガニは海老に鋏をくっ付けたような生き物で、皆興味深々だった。
持ち上げると沢山ある足をバタバタと動かし、それは何だか面白かった。
「あいてっ」
ザリガニの鋏に手を挟まれ、赤い血が出て来た。
ザリガニをバケツに戻すと、鋏を大きく前へ突き出し、もう1匹へ威嚇を始めた。
彼女は呆れながら、ハンカチで血を拭いてくれた。
「怒ってるんだよ。あんまり虐めないで」
お互いの鋏で攻撃し合う、2匹のザリガニ。
赤い色の鋏。
指から滴る赤い血。
「学校にはザリガニ、連れて来ないで」
「なんで? きっとお魚友達いっぱい嬉しーよ」
「なんでも! 連れて来ないで!」
突然の大きな声に友達は皆、驚いていた。
きょとんとした彼女の顔。
気がつくと、咄嗟にザリガニの入ったバケツを掴んで走り出していた。
「ひどい! 返して! 返してよ!」
自分は、遠くで叫ぶ彼女の声が聞こえなくなるまで、走り続けた。
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