五枚目
先生の推理は、正解でした。
ゲームアダプターは、事務所の箱から見つかったのです。
剥き出しで詰め込まれた、中古のゲーム機やアダプターの中から。
急いで僚成くんに電話して、お母さんの帰宅前に伝えました。
私たちは、かろうじて間に合ったのです。
帰り道の《一分》で、先生は全て説明してくれました。
「でも僚成くんは、箱も見たって」
「あれは嘘だ。確認は不十分か、あるいはしていない」
「ええっ?」
「箱を底まで調べるには、ガムテープを完全に剥がす必要がある。
だが、彼が持ってきた箱は、しっかりテープで閉じられていた。
彼に後片付けの習慣はない。部屋の散らかりようを見ればわかる。
テープを剥がしたなら張り直さず、そのまま持ってきたはずだ。
おそらくは開けていないか、隙間から中を覗いた程度だろう」
「言われてみれば、生返事だったような……
でもなんで、箱を調べなかったんです?
探偵に頼むくらい、本気でアダプターを探してたのに」
「後ろめたいからだ」
「後ろめたい?」
「遊ばなくなった玩具は、子供には忌まわしい存在になる。
身勝手に捨てた恋人のように、と言えばわかりやすい。
無意識に忌避し、遠ざけ、忘れようとする。
報酬を払う際、彼に執着が見られなかったのも、それが理由だ」
「確かに、昔のゲームを憎んでるみたいでした」
「大人になれば物の見方も変わるが、彼は子供だ。
彼の母親は、そんな息子の性格を
その上であえて、探しやすい子供部屋の箱を、隠し場所に選んだ。
昔の恋人と向き合うなど、けして出来ないと読んだ上で。
木を隠すなら森の中だが、これは輪をかけて巧妙な手口と言える。
恐るべき胆力と洞察力だな」
「お母さん、すごい」
「鼻が通っていなければ、私も一杯食わされたところだ」
その後のことですが。
僚成くんが探偵を雇ったことは、すぐにお母さんにバレました。
部屋から箱が消えたことを問い詰められ、白状したそうです。
結果、「二度と隠さない」という約束は反故になり、またアダプターを隠されるようになったそうですが、調査依頼は二度とありませんでした。
なんでも、消えたアダプターを探すのが、ゲームより面白くなったとか。
もしかすると、私たちの調査につきあったのが原因かもしれません。
ちなみに本棚の謎の板は、強度不足を感じて後からはめ込んだものだそうです。
初めてのDIYで、補強のコツがよくわからなかったとか。
「何故、親はゲームアダプターを隠すのか。
サイズや取扱の容易さもあるが、一番の理由は復讐だと思う。
本体があってもゲームが出来ない。
そんな子供の絶望こそが、親の真の目的なんだ」
「私は、違うと思います。
きっと、お母さんは寂しかったんです。
大きくなった子供がゲームばかりして、自分を見なくなったから。
アダプターを隠して、子供と遊びたかったんですよ」
「ひどい話だな」
「いい話じゃないですか!」
こうして、「ゲームアダプター殺人事件」は幕を閉じたのです。
◇◆◇◆◇
「ネピアくん! 私のアダプターを知らないかね?」
事務所の扉を開けると、先生が半泣きで
「なくなったんですか?」
「なくなったよ! それも全部だ!」
「うーん、知りませんね」「うおおお、どこだー!!」
すみません。実は知っています。
隠し場所のことじゃありません。
報酬のゲームにドハマりする先生を、ドア越しに見つめる、先生のお母様を。
スマホは隠すと困りますが、ゲーム機は問題ないですもんね。
ゲーム好きの子供と母親がいる限り。
アダプターを巡る戦いは、不滅なのかもしれません。
ゲーム機アダプター殺人事件 ~探偵・花水木 啜~ 梶野カメムシ @kamemushi_kazino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます